ル・マン24時間レースの舞台に、トヨタが液体水素エンジンのハイパーカーを走らせる。そのマシンは「TR LH2レーシング・プロトタイプ」。いまのWECでは、まだ水素クラスの規則が整っていないが、それでもあえて技術を磨き、可能性を示すための1台だ。ガソリン、電気、eフューエルに続く新たな選択肢として、水素はどこまでモータースポーツとクルマの未来を変えていくのか。
文:段純恵/画像:トヨタ・レーシング、トヨタ
【画像ギャラリー】ドイツで鍛えたウワサの水素ハイパーカー「TR LH2 Racing Prototype」がコレ! TR010と比べてみて!(23枚)画像ギャラリー栄光のル・マンでトヨタが新たな試み!
いまフランスで開催中のWEC世界耐久選手権第3戦『第94回ル・マン24時間レース』(決勝6月12-13日)で、自動車の歴史に新たなページが加わる。トヨタ・レーシングが開発を進めてきた液体水素を燃料とするハイパーカー、『TR LH2レーシング・プロトタイプ』によるデモ走行が実施されるのだ。
今季WECに参戦中のハイパーカー、『トヨタTR010ハイブリッド』と同一シャシーをベースに開発されたこの水素燃料プロトタイプカーは、その名のとおり試作段階のマシンである。そもそもWECに『水素クラス』の技術規則、レギュレーションは現状、存在しない。
昨年9月、WEC富士6時間レースの会見で、FIAと共にWECを運営・主催しているACOのピエール・フィオン会長が、『’26年年初に水素クラスのレギュレーション骨子を発表したい』とブチ挙げていたが、実際の策定にはまだしばらく時間がかかるようだ。
「このプロトタイプマシンは、自分たちが水素の技術や取り回しを学ぶためのもので、レギュレーションのあるなしに関わらず、自分たちがやれることをやろうというスタンスでの取り組みとご理解いただければと思います」。
そう話すのは、TR LH2レーシング・プロトタイプをシェイクダウンさせ、ル・マンのデモランでもステアリングを握る予定の中嶋一貴TOYOTA RACING GmbH副会長だ。
「ケルン近郊のショート・コースで行った1度目のシェイクダウンでは、マシンに課題は出たもののエンジンは最初から順調でした。それからひと月後、5月末に行った2度目のシェイクダウンでは、マシンの課題も解消され、エンジンとともに問題はなく、これならル・マンでのデモランも滞りなく行えると判断できました」。
富士からケルン、そしてル・マンへ
すでに知られていることだが、トヨタは水素燃料車両の研究開発に、おそらく世界のどの自動車メーカーよりも熱心に取り組んでいる。水素燃料車の可能性に賛同する仲間の輪を広げるとともに、’21年からは日本のスーパー耐久レースのSQ(開発)クラスに参戦、実戦でデータを取り入れる他、WEC世界ラリー選手権でのデモ走行でも研究開発の成果を披露してきた。
そして今回、モータースポーツの中でもとりわけ新たな自動車技術への挑戦を促し、その発展に寄与してきた歴史を持つル・マン24時間で行うTR LH2レーシング・プロトタイプのデモンストレーション走行は、トヨタと仲間たちがこれまで積み重ねてきた水素燃料車の知見の披露であると同時に、世界の少ないであろう人々の中にある水素燃料とそれを使った自動車への誤解や偏見、それ以前としての情報不足に大きな一石を投じることは間違いない。
「ACOのフィオン会長は、ル・マンがこれまでの歴史の中で目指してきた新しい技術に挑戦する姿勢を、こういう世界情勢の時代だからこそ、水素という形で取り戻したいと思ってらっしゃる。もちろん簡単なチャレンジではありません。果たして多くの人がついてこられるのだろうか? という疑問がつきまとう挑戦です。
でも日本のS耐シリーズでモリゾーさんがドライブされた水素エンジンのカローラが、はじめは気体水素だったのがいまは液体水素に変わり、また今年の富士24時間レースでは超電導液体水素ポンプが搭載されました。
こういう進化の流れの中で、水素燃料に関する新しい技術を世界の場でも試し、できればその性能を証明し、人々がもっと関心を持ってくれる流れを作っていくのも、我々の大きな役割の一つではないかと思っています」。
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