2018年5月頃から佐世保や横須賀などで自動車用の電子キーが作動しないという報告が自治体などに多く寄せられており、西日本新聞などがこの件について報道している。これに関して、どちらの場所も「軍港」があり、米軍などの軍用無線の電波との干渉が原因という識者もいる。
しかし電子キーが普及してからかれこれ20年近くは経つし、突如として軍用無線の周波数などとバッティングするというのも考えにくい。そこで今回は軍事にも詳しい鈴木直也氏に話を聞いてみた。
文:鈴木直也/写真:Shutterstock.com
■北朝鮮情勢に関連あり!? 大型艦入港が原因なのか?
5月下旬、佐世保や横須賀などでクルマの電子キーが作動不良になるというトラブルが多数報告されてニュースとなった。
この件、販売店などに合計200件以上の苦情が寄せられたためメディアが動いてニュースになったのだが、どうもこの種のトラブルはそんなに珍しいことでもないという。
共通点は、どちらもいわゆる“軍港”で、米海軍の大型艦船がしばしば寄港すること。そこから、どうも軍事用電波との干渉が原因ではないか、そういうニュアンスで報道されている。
たしかに、横須賀には5月17日から29日まで空母ロナルド・レーガンが居たし、佐世保には米海軍強襲揚陸艦“ワスプ”をはじめ、初の日仏米英共同訓練で仏海軍の強襲揚陸艦“ミストラル”や英海軍輸送揚陸艦“アルビオン”などが頻繁に出入りしていた。
北朝鮮情勢がきな臭い昨今、電子戦機材のテストでもしたのではないか、そういった疑いが持たれているようだ。
クルマの電子キーについては、すでにベストカーWeb読者のみなさんならお馴染みだと思うが、一度使うと手放せないくらい便利な機能を提供してくれる。
キーを身につけておきさえすれば、ドアのロック・アンロックはもちろんエンジン始動もボタンワンプッシュでOK。これに馴染んでしまうと、もう普通のメカニカルなキーには戻る気がしなくなる。
電子キーが動作するときには、キーとクルマの間で電波による信号のやりとりが行われる。
クルマ側から発信されるのは125KHz前後のLF帯、電子キーから発信されるのは312MHz付近のUHF帯の電波。電子キーのアンロックボタンを押すと、暗号化されたコードがクルマ側のECUに送られ、コードが正しければドアロックを解除する。
クルマ側からの送信に125KHzなんていう長波域(LF)が使われている理由は、電子キーの位置を精密に特定するためだ。ほんの10cmでも電子キーがクルマの外にあると、エンジンをかけようとしても「キーが見つかりません」というエラーが出る。
これは、複数のLFアンテナからの信号強度を計測し、キーが車内にあるか車外にあるかを常に判断しているから。周波数の低いLF帯の方が電界強度を精密に計測しやすいという理由による。
さて、問題の軍事用電波との干渉についてだが、はっきり言えば「サッパリわからない」というのが正直なところだ。
■軍用無線ならではの秘匿性が混線原因か
一般的に軍用無線周波数帯というと、主にレーダーで使われる、C、X、Kuといった帯域が知られているが、これは4GHz〜18GHzといったメーター波からミリ波帯の電波。
敵のレーダー波をジャミングする電子戦はこの帯域での話で、電子キーが使う周波数帯域とはぜんぜん関係ない。ただ、300MHz帯は通信にはもっとも使いやすい帯域だから軍用無線電話などにも使われていて、それが関連している可能性はあるかもしれない。
軍用無線は妨害に対処するため周波数ホッピング(周波数帯域を極短時間で高速に切り替えながら通信する方式)を使用するが、その信号は狭い帯域で短時間に強い信号強度で送信される。そこでクルマの電子キーとの干渉が起きた可能性はなきにしもあらずだ。
ただ、これはあくまでも想像で、軍事機密にアクセスできないシロートが分析できるのはその辺まで。電波技術のエキスパートで、しかもその軍事利用の専門家でないと真相は藪の中だ。
そんなわけで、今回の事件の本当の原因はさっぱりわからないんだけど、最後にせめて電子キーのトラブル時にパニックにならないためのヒントをひとつ。
ドアの開閉は電子キーに内蔵されている「物理キー」を使って解錠できるのはよく知られているが、困るのはエンジンの始動。最近のクルマはエンジン始動はプッシュボタン式がほとんどで、そもそもキーシリンダーが付いていない。
そういう時は、電子キーユニットをエンジン始動用ボタンのところへ持って行って軽く触れると、イグニッションがONになってエンジンの始動が可能となります。
【編集部まとめ 各社の電子キー不具合時の対処方法】
電子キーは非常に便利だが、不具合時には自動車メーカーによって操作方法が異なる。
以下にオンライン上で電子キーの不具合時の対処法を公開している各社の始動方法を掲載した。今回のようなトラブルだけではなく、電池切れなどでも対処法は同様である。
愛車のマニュアルを読んでみるのも大切だ。
・スバル (2-30参照)
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