■全身をセンサーにして走る
それでもレースだから、攻める時は攻めるわけです。はじめの5周も見えないなりに、前を走る相手が後ろの僕に気づかないことを逆手にとって、いま相手をこっちに追いやっておけば相手がそっちに行った瞬間にこっちから抜けるとか、そういうことを考えながらチャンスを伺ってました。
コース全域のすべてが見えないというわけではなくて、例えば1コーナーに進入して2コーナーを曲がる最中や、速度が遅くなるデグナーの二つ目やヘアピンで、前のクルマとの距離をなんとなく確認できる。
その感覚を元になんとなく近づいていって何かの拍子に追いついたら抜く。そうやってレース序盤に何台かオーバーテイクしました。『なんとなく』という言葉を使いましたが、そう表現するしかないですね(笑)。雨で視界がきかない時にどうやって走るのかを説明するって難しい(笑)。
勘ではないけれど、そろそろブレーキじゃないかとか、アクセル緩めないとぶつかるかもとか、視覚や聴覚だけでなく全身をセンサーにして走っている、としか言いようがないです。
10周目くらいには雨量も少なくなって視界は良くなったんですが、その時にはタイヤが終わってました。スタートから雨量がすごくて何も見えずプッシュできる状態でもなかったのに、3周終わった時点でアレ? なんかおかしい気がすると思ってフロントタイヤを見たら、もうボロボロでした。
もともと鈴鹿って『川』ができやすいコースなんです。実はSFの数日前にホンダのスポーツドライビングプログラムがあって、フィットで雨の鈴鹿を走りました。
同じ週末のSF決勝日に雨の予報が出ていたので、どこに川ができるか確認するのにちょうどいいと思ったんですが、実際、日曜日は雨にはなりましたけど、『あれ、こんなとこにも川あったっけ?』とか『こんなに幅広の川だっけ?』という具合に状況が変わってしまって、フィットでの予習はイマイチ役に立たなかったですね(笑)。
■タワーから見るのと実際に走るのとでは違う
そんなコントロールを失う確率が高い路面コンディションで、前後ともタイヤのグリップもなくなった状態で、自分も他のドライバーさんも本当によく最後まで走りきったなぁ、というか。
ドライバーが危険と感じる雨量や水量って、やはりどうしてもコントロール・タワーにいる競技長や審査委員の方々にはなかなか状況をつかめない部分があると思うんです。外からだと『見える』けれど、実際に走ってる僕らには『見えません』とか、認識の差はあると思います。
そこをドライバー側とレースの運営側でもっと摺り合わせていければいいのかなという思いはあります。
欧州でのレースディレクター(競技長)のイメージって、すべての権限を持っていて、SCの導入やペナルティを含むすべての判断をする人なんですけど、日本では競技長から審査委員に一回投げてとか、何かを判断して決定するのにちょっとラグが大きいというか、何に対してもひとつひとつに時間がかかり過ぎているというか。
合議制ってところが日本のレースらしいのかもしれないけど、今回のようにコンディションが悪かったり安全面に影響する場面では、やはり迅速で公平な判断がより求められると思うんです。
最近NEXT50とかいろいろやってるので、てっきりコンテンツ重視でスタンディングスタートにしたのかな、ショー的要素でやったのかなぁと勝手に思ってたんですけど(笑)、でもだとしても、あれはちょっと危なすぎるじゃないの? と思います。運営側の人たちは、もっといろんな意見に耳を傾けて、改革に取り組むことをやって欲しい。
見応えのあるレースを安全にという意味でも、何かもっとできることはあるんじゃないかなと思いますし、ドライバー側もフォーミュラ・レーシング・ドライバー・アソシエーション(FRDA)から今回みたいなタイミングで働きかけられるといいのかなぁ、っていうのが今年から初めて入った僕の意見です(笑)。
【画像ギャラリー】豪雨の中で危険すぎるスタンディングスタート!? 葛藤のスーパーフォーミュラ2022第3戦鈴鹿(11枚)画像ギャラリー
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