高高度バトルを制したのはレッドブルではなくフェラーリだった
オーストリアではルクレールが安定した速さを見せつけ、前半戦の数々の不運を乗り越えてついに優勝。それも最後の10ラップ勝負はルクレールの独壇場だった。レッドブルのフェルスタッペンとルクレールは同時にピットインして同じミディアムタイヤで再スタート。まさにガチのバトルになったが、ルクレールはフェルスタッペンを蹴散らし優勝を勝ち取った。
さらに後方からフェルスタッペンを照準に収めたサインツが猛追していた。計算上フェラーリは確実にワン・ツーフィニッシュを手に入れていたはずだったが、サインツの猛追はエンジンブローであえなく終わりを告げてしまった。
フェラーリのスピードは間違いなく本物で、トップスピード、中高速コーナー、立ち上がりのトラクションそしてタイヤ・マネージメントにいたるまで、全てでこのレッドブルリンクではレッドブル以下全てのチームよりも勝っていた。
マックスは何度もルクレールに抜かれていた。なぜ、最強PUのレッドブルは負けたのか?
レッドブルは得意とするサーキットでありながら、トラクションとタイヤ・マネージメントでフェラーリに遅れを取った。特にレッドブルリンクは高いスピードを維持しなければならず、パフォーマンスで勝っているフェラーリとの勝負には、ダウンフォースを減らしてさらにドラッグを軽減しなければならなかった。したがってコーナリングでのダウンフォースはぎりぎりのレベルだったのではないかと思う。
そう考えると上り切ったターン3の低速からのトラクション、そして下りコーナーの連続するセクター2で苦しい。下りのターン8から最終コーナーを抜けてそのままメインストレートでは高速を維持できた。しかし、ぎりぎりのエアロバランスは若干神経質なリア特性となりタイヤに厳しい状況を生み出していた。そして加速時のトラクションで完全にフェラーリに負けてしまったのだ。
フェラーリF1-75は開幕時の予想通り、ほぼでき上がったマシンに思える。したがってアップデートに他チームのようなボディワーク、特にサイドポッド形状等の大掛かりな変更は必要がなく、細部のリファインでそれなりの効果を出してきている。もちろんリアウイング等に大きめのアップデートはあったが、これもサーキットセッティングの一部と考えれば、過激性は無い。今回は隙の無いマシンに仕上がっていた。
レッドブルはこのままでは苦しい闘いになってきそうだ
RB18はかなり過激なサスペンションレイアウトが施されている。加減速時の荷重移動をより有利に行うサスペンションジオメトリを使い、加減速でのライドハイト変化をベンチュリーフロアと車体上面エアロに結びつけている。必要に応じたダウンフォースを得るというコンセプトで成功したマシンだ。しかし、ライバル・フェラーリのパフォーマンスの向上が著しく、RB18はこのままのレベルではフェラーリに遅れを取ってしまう。確実なダウンフォースを得る様な手段を講じないと、マルチプレーヤー化したフェラーリとガチで戦うのがつらくなってしまいそうだ。
【画像ギャラリー】TOPチームだけでなく、中団勢の争いも激しかったオーストリアGP(5枚)画像ギャラリー津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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