■ホームアドバンテージを最大限使うモリゾウさん
ここ「KIZUNA」のグラベルコースは、GRヤリスを開発したテストコースとでもあり、コロナが蔓延した昨年、一昨年モリゾウさんはここで走り込んで腕を上げたという。そして佐々木雅弘選手が監修したコースが興味深い。普段ここを走っているモリゾウさんに有利なようコースレイアウトがされたことは、想像に難くない。
今回のレギュレーションはモリゾウさんが普段ラリチャレを走るGRヤリスと以前ラリチャレを走っていた86のモリゾウ2号車に1度ずつ乗り、その合計タイムを競うというもの。モリゾウさんはトップドライバーたちが乗りなれていないFRで差を付けようという思惑のようだ。
特に「神に祈る時間」と名付けられたコーナーは難しそうだ。近頃は流行語大賞になりそうなくらい使われるようになった「神に祈る瞬間」は、もともとGRヤリスの厳冬期のテストで、クルマが限界を超えて、どうにもならなくなった状態をモリゾウさんが表現したもので、今回はクルマの限界を知るコーナーともいえそうだ。
「私のホームコースだから、好きなようにやらせてもらいます(笑)」とモリゾウさんが言うように、モリゾウさんと佐々木雅弘選手はコ・ドラなし。さらにこの日の朝モリゾウさんはコースをみっちり走り込んだのに対し、ラトバラチーム代表ほかドライバーたちは、コ・ドラ付きでウェイトハンデがあるうえ、ノアに乗ってコースを1周下見しただけ。これはかなりのハンデかもしれないが、「あなたたちはプロ、私はアマチュアドライバー」とモリゾウさんはハンデの正当性を主張し、みんなも笑って受け入れた。
しかし、そこは負けず嫌いのラトバラチーム代表と選手たちのこと。スマホで画像を撮り、選手同士で攻略を話し合い、外からコースを眺めていたコ・ドラたちもその輪に加わって、あっという間にコースのツボが頭に入ったようだ。最初はモリゾウvsラトバラ代表という戦いの構図だったが、ドライバーたちの気持ちにスイッチが入ったいま、「KIZUNA CUP」ともいえるナンバーワンドライバーを決定する戦いに姿を変えていた。
■ラトバラ代表がリードするも予測不能な展開が待っていた
1本目はGRヤリス。さすがにドライバーたちは、4WDの扱いに手慣れたもので、ミスなく華麗なテクニックを披露。特にラトバラ代表は疲れ知らずのダイナミックなドライビングを見せ、現役の選手たちも口をあんぐり! ロバンペラ選手のタイムがよくないのは、風邪気味とのこと。トイレで遭遇し「大丈夫ですか?」と聞くと、「大丈夫」というが、少し元気がないように見えた。
トップタイムはラトバラ代表で2位のエバンス選手に1秒以上リード。モリゾウさんは3位で、その差は1秒75。モリゾウさんも速いが、ラトバラ代表の勢いはそれを上回り、モリゾウさんピンチと誰もが思った。
しかし、86にクルマを代えた第2ラウンドに大波乱が起きた!
なんとラトバラチーム代表が2度のパイロンタッチのミスで4秒のペナルティを喫し、2本のタイムを合計した総合順位も最下位に沈んでしまった。
「なんてことをやらかしてしまったんだ! 自分のミスが信じられない!」
ラトバラ代表は身もだえして自分のミスを悔しがり、モリゾウさんにもう一度走らせてくれと懇願する。
「アキオサン、プリーズ!」
「家族」想いのモリゾウさんは、その願いをかなえ、コ・ドラとして86に乗り込み、ラトバラ代表にチャンスを与えた。ラトバラ代表は九死に一生を得た思いで、再びシートに乗り込んだ。皆がラトバラチーム代表を冷やかし盛り上げる。
ラトバラ代表はトラクションをいっぱいにかけスタート! 加速はいい! しかし、コーナーでは若干大回りとなり、タイムをロスする。結果はモリゾウさんのタイムを上回れず「負けました」と潔く敗戦を認めていた。
ラトバラチーム代表を慰めるモリゾウさんとモリゾウさんやほかの選手の健闘をたたえ合うドライバーたちの清々しいシーンがそこにあった。そして総合トップだった佐々木雅弘選手には大きな賞賛が送られた。その佐々木選手は「一生の思い出です」とほんとうにうれしそうだった。
世界一クルマが大好きなアキオファミリーのホームパーティは、このあとWRCの慰労を兼ねた食事会が行われ、そこでも大いに盛り上がった。ところで、驚いたのはその日の深夜便でオジエ選手たちはフランスに帰郷するという。移動も仕事のうちだというWRCのトップドライバーの一面を見た思いだった。
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