中古車業界は今、大変な状況になっている。中古車価格が暴騰し、なかには新車価格を上回るようなものも出てきている。トヨタのランドクルーザーは人気車種で、新車の上限は800万円程度だが、すでに2000万円を超える中古車が現れている。
これはランクルだけではない。多くの中古車で価格高騰が起こっているのである。まさに中古車市場はバブルの状態だ。トヨタのアルファード、ヴェルファイアなどのミニバンや、ハリアーなどのSUVも軒並み中古車価格が急騰しているという。
文/松崎隆司、写真/AdobeStock(アイキャッチ写真は@crizzystudio+@kolonko)、TOYOTA
中古車が新車よりも高い?
中古車価格高騰の大きな理由のひとつは、海外での日本車需要だ。海外のオークションでは軒並み日本の中古車が高値で取引されている。こうした影響が日本のマーケットにも少なからず出ていることは否めない。廃車直前の中古車も高値取引が行なわれている。
「2020年後前半ごろは1トン1万円前後で取引されていたスクラップが、今は4~5倍に跳ね上がってしまった。昔ならお金をもらって廃車にしていましたが、今は4000~5000円くらい支払っています」(中古車業界の事情通)
そのような状況で「中古車業者はウハウハじゃないか」と思うかもしれないが、実情はまったく違う。「新聞記者なんかに、価格が上がって儲かっているでしょうなんていわれるんですが、とんでもない。経営は火の車ですよ」(中古車業者)
中古車業界からはこんな声があがっている。
さらに中古車関連会社の社長は次のように語る。
「海外の需要が高まっているのは確かですが、いま船のコンテナはいっぱいで、送りたくても送れない状態が続いているんです」
いったい何が起こっているのだろうか。中古車価格暴騰の舞台裏についてレポートした。
仕入価格高騰で中小零細業者は悲鳴
中古車市場が急騰する大きなきっかけとなったのは、世界的な新型コロナの蔓延だ。人々の行動が規制され、公共交通機関での密を避けるようにクルマを使用する人が急増、クルマの需要と価格高騰に拍車をかけた。
さらにクルマのユーザーはクルマを売却せずに乗り続ける傾向が強くなると、中古市場での品不足と中古車の価格の高騰を引き起こした。それだけではない。
工場の操業停止や輸出規制などで半導体や自動車部品が不足、クルマの生産にも大打撃与えた。
たとえばクルマメーカーの製造拠点、上海でのロックダウンや、ベトナムやマレーシアなどアジア地域でのコロナ感染拡大による操業停止で、トヨタをはじめとした自動車メーカーは減産を強いられ、悲鳴をあげている。
すでにトヨタは2022年8月、ノア、ヴォクシーなどを生産する6つある工場の9つの生産ラインで生産調整を行うことを明らかにし、ホンダも7月、半導体不足から鈴鹿製作所と埼玉製作所で納期遅延が起こっていることを発表した。Nシリーズ、ヴェゼル、シビック、ステップワゴンに影響が出る。
ここで一つ気になるのは、それほど中古車の価格が高騰しているなら、いま保有しているユーザーがこぞって売却するのではないか、ということだ。
「もちろん今は売り時です。ただし、新車がなかなか買えず、高年式の中古車も値段が大幅に上がっている状況のため、次のクルマが容易に購入出来ないのが難点です」(中古車業界の事情通)
つまり中古車業者としては中古車価格が高騰したからといって販売するためのクルマがなかなか手に入らないのである。
問題はそれだけではない。価格高騰による仕入れ値の上昇だ。これは中小零細の中古車業者にとっては死活問題だ。
「中古車のタマ不足とそれにともなう価格高騰により、 仕入れが厳しい中小の中古車販売事業者が増えています。クレジットで審査承認が出ても、適正価格でクルマが仕入れられないと商売になりません。なので、困っている事業者は多いです。大手はオークション仕入れよりも自社買取を推進しています。オークション相場高騰の影響で、お客様から直接買取した自社在庫とオークション仕入れ車両の利益率の差が顕著になっているからです」(中古車のファイナンス会社の幹部)
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