後ろから極端に車間を詰めてあおってくる「あおり運転」が社会問題化して久しいが、今度は「逆あおり運転」という新たな火種が巻き起こっている。
2020年1月20日から150日間の日程で召集されている通常国会であおり運転の罰則強化が盛り込まれた道路交通法が可決される見通しだが、逆あおり運転に関しても規制強化が待たれる。
この逆あおり運転とは、わざとノロノロ運転をしたり、急ブレーキをかけたりして進路を妨害する運転のことだ。
最高速度が指定されていて、速度違反になれば違反切符や反則金がとられるが、逆あおり運転によるノロノロ運転は違反にならないのだろうか? そもそも最低速度って設定されているのか? 自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/高根英幸 ベストカーWEB編集部 Adobe Stock
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一般道では10km/h以下で走り続けても違反切符を切られることがない
スピード違反は、取り締まりを受ければ検挙されて罰金(反則金)、運転免許は運転免許に違反点数が付くだけでなく 、前方の障害物や歩行者、自転車に気付くのが遅れれば、衝突事故を起こしてしまうリスクが高まる。だから道路の幅や交通の状態に応じて制限速度が設定されているのだ。
ところが、高速道路や自動車専用道路以外の一般道では最低速度は設定されていない。
ただし、一般道であっても道路標識によって最低速度が指定されている区間においては、標識を下回る速度で走ることは違反となる。なお、最低速度の標識は、速度の数字にアンダーバーが付いている。
ちなみに道交法では見通しの悪い交差点や歩道のない道路で歩行者が多い状態(歩行者と安全な側方間隔を保持できない場合)など、危険だと思われるところでは徐行することが義務付けられているから「制限速度に近い速度で走らなければいけない」という考え方は間違っている。
道路交通法第23条(最低速度)
第23条 自動車は、道路標識等によりその最低速度が指定されている道路(第75条の4に規定する高速自動車国道の本線車道を除く。)においては、法令の規定により速度を減ずる場合及び危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その最低速度に達しない速度で進行してはならない。
この指定最低速度区間が設置されるには条件がある。平成29年4月24日に警察庁交通局長が『「交通規制基準」の改正について』という通達を出している。
それによると、最低速度区間を設けて良いのは、”橋梁部、観光地、名勝史跡等を通過する自動車の低速走行により、一般交通に著しく支障をおよぼす区間に限定”とのこと。
観光により度を超えたノロノロ運転が続発し、交通が混乱する場合に最低速度を設けるということだ。ただし、昼間に恒常的に渋滞が発生する区間では、最低速度規制を行ってはならないとしている。
現状、実際に指定最低速度が設けられるのは、80km/h以上の最高速度規制が行われている高速道路以外の道路で、都市バイパスなど自動車専用道路では各都道府県により、最高速度が70~80km/hに緩和されている事例が見られる。
そうした最低速度が設定されている自動車専用道路は、神戸淡路鳴門自動車道、伊勢湾岸道路、福岡前原有料道路、東水戸道路、三陸自動車道、仙台東部道路などで、指定最低速度が規制され、今後も増加していくものと思われる。
とはいえ、平成29年4月の警察庁道路局長の通達による指定最低速度設置可能道路は、一般道で時速80km以上、観光などで渋滞が想定できる区域となるが、現在までこのような一般道はいまだにない。
つまり、一般道では最低速度の制限はないため、駐停車禁止の道路を除けば制限速度までなら、何km/hで走行しても法律上は罰せられることはない。
それでも極端に遅いスピードで走行するのは、問題がないとは言えない行為だ。最近、ネットニュースを賑わせた「10km/hおじさん」がその一例である。
これは神奈川県の清川村周辺という地域で、10年に渡って5km/hから10km/hという低速でクルマを走らせている男性で、後続車が渋滞するため地元住民を中心に迷惑を被っているということだ。
先日TVのニュースに取り上げられ、本人に直撃インタビューしているが、本人としてはいたって真面目、周囲が危険な運転をしていると主張している。
安全のためにゆっくり走る、という気持ちは分からないでもないが、その道路に制限速度が設けられている、ということは車両がその速度までは加速して走行することを許されている、と解釈できる。
そもそも交通は社会生活を営むうえで、移動や物流の効率を高めるために利用されるものであり、安全に配慮しながらクルマのもつ移動能力の恩恵を受けることは、運転免許を取得したドライバーの権利とも言える。それを阻害するのは、やはり社会生活を営む市民の一員としては相応しくない行為だろう。
さらに問題なのは、後続車が追い越そうとするとクラクションを鳴らして威嚇したり、山間部のカーブの先で停車してしまうことがある、という行為だ。
追い付かれたクルマの義務として、後続車が追い越しをかけたら加速したり、進路を妨害してはいけないことも道交法で定められている(道路交通法第27条)。追い越しをかけられたら威嚇するというのは、追い付かれたクルマの義務違反に該当するだろう。
それでも動画サイトに投稿する目的で、あおり運転をするドライバーをワナに嵌めようと獲物を探しているような悪意のあるドライバーではなく、今回の「10km/hおじさん」のように自分は正しいと思い込んでいるドライバーの場合は、厄介だ。だからこそ地元警察も取り締まれずにいるのだろう。
もし本当に、この男性が交通安全のために低速走行しているのであれば、後方から車両が追い付いたら左に寄って進路を譲らなければ、追い付かれた車両の義務違反として検挙できるが、なるべく穏便に済ませたいという配慮が感じられる。
それも分からないでもないが、手をこまねいている間も迷惑しているドライバーは我慢を強いられるのだから、解決しなければならない問題だ。
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