液体水素マシンか? GT3車両か? ル・マン惜敗から見えたトヨタの「次」のクルマづくり

液体水素マシンか? GT3車両か? ル・マン惜敗から見えたトヨタの「次」のクルマづくり

 2025年のTOYOTA GAZOO Racing(TGR)のル・マン24時間耐久レースへの挑戦。結果だけ見てしまうと惨敗だ。しかし、現地取材を行なった筆者(山本シンヤ)は、結果だけでは語れない裏側をいろいろと見ることができた。今年のル・マンは何が足りなかったのか? 何を得たのか? キーマンの証言を元に報告したい!

文:山本シンヤ/写真:山本シンヤ、トヨタ自動車

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「BoPだから何もできない」ということに甘えすぎていた

ル・マン初参戦から40年目の2025年。トヨタはGR010 HYBRID<br>7号車にTS020を彷彿とさせるカラーリングを施してレースに臨んだ
ル・マン初参戦から40年目の2025年。トヨタはGR010 HYBRID
7号車にTS020を彷彿とさせるカラーリングを施してレースに臨んだ

 WECは各参戦マシンの性能調整を行なうBoP(Balance of Power)という仕組みが設けられている。車両重量や出力、ハイブリッド車はシステム出力やエネルギー使用量などが調整項目だが、要するに各マシンの性能差を最小にすることでレースを盛り上げようと言う策である。

 従来はシリーズ通じてのBoPだったが、2025年はル・マンのみのBoPが設定された。細かい数値に関しては割愛するが、TGRにとって比較的“緩め”だったようだ。

 ただ、蓋を開けるとライバルはBoPから算出する予想を上回るタイムや最高速を記録。レギュレーションではBoP設定に影響を与える“いかなる行為”も禁止されているはずだが、何かが違う……。チーム代表でもある小林可夢偉選手はこのように分析している。

「我々は『BoPだから何もできない』ということに甘えすぎていたと思っています。それに対してライバルは、『何としてでも勝ってやろう』というメンタリティが強かったと思います。今までは参戦メーカーが少なかったのでそのようなことはありませんでしたが、参戦メーカーが増えた今、我々も『今までのWECはこうだった』では通じないことが解りました」

ただ勝てばいいだけじゃない

チーム代表と7号車ドライバーを兼任する形でWECに挑んでいる小林可夢偉選手(中央)
チーム代表と7号車ドライバーを兼任する形でWECに挑んでいる小林可夢偉選手(中央)

 要するにライバルは、ルールBookにない部分をかなり攻めているのだろう。この部分に関して筆者は何かいえる立場ではないが、1つ解ったことは現状で満足していてはダメで、「もっといいクルマ」にするためにいろいろなチャレンジをしていく必要があるということだ。

「チャレンジすることで人が育ちます。僕は、人を育てる所にもっといいクルマづくりの可能性があると思っています。恐らく『失敗できない』、『チャレンジできない』という考えでは、前に進むことはできません。これは体制云々の問題ではなく、みんなのマインドの話ですね」

 以前、可夢偉選手と話をした時に、「WECは“勝つこと”が最大の目的ですが、ただ勝てばいいだけではないということ」と語ってくれたが、その本質はどこにあるのだろうか?

「もちろん勝ちたいですが、勝ちに行くにはどのようなプロセスが必要なのかをもっと考える必要があります。そのためにはやはり“人”が大事です。我々のチームはプロフェッショナルの集まりですが、皆が手を繋いで同じ方向/同じ目的に向かった先にこそ、もっといいクルマづくりがあると信じています」

プロフェッショナルだがドライ……そこが変わった!

WECハイパーカークラスの規則「新規開発5年禁止」の5年目にあたるGR010 HYBIRD(先頭。8号車)。ライバルに対するハンディを背負っての参戦だった
WECハイパーカークラスの規則「新規開発5年禁止」の5年目にあたるGR010 HYBIRD(先頭。8号車)。ライバルに対するハンディを背負っての参戦だった

 TGRグローバルモータースポーツディレクターの加地雅哉氏がさらに付け加えてくれた。

「もちろん次のステップの話もし始めていて、今回発表した液体水素を燃料とする『GR LH2 Racing Concept』もその1つですが、グローバルなTGRの活動として、技術だけでなく人の部分もシッカリとやっていく必要があると認識しています。ただ、今はル・マンに全力集中で、まずは勝ってから……ですね」

 筆者はル・マンを2年ぶりに訪れたが、チームが一番変わったと思う所は“人”である。2年前は、ピット/チームラウンジではプロフェッショナルな部分を感じる一方、どこかドライ……モリゾウさんの言葉を借りると「取材し辛い」、「居場所がない」と感じた。

 しかし、今年はプロフェッショナルな部分はそのままに、どこか温かみを感じた。例えば、我々取材陣に対しても「君たちもチームメンバーの1人だから」、「解らないことは何でも聞いてよ」と常にフレンドリーなのだ。

 チームの動きを見ていても、無駄がないのはもちろんだが、個々が「自分以外の誰かのために」を考えて行動しているのがよく解る。それもやらされているのではなく、自発的に……だ。

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