液体水素マシンか? GT3車両か? ル・マン惜敗から見えたトヨタの「次」のクルマづくり

負ける時もみんなで負ける。誰もせいでもない

TGRグローバルモータースポーツディレクターの加地雅哉氏は「次のステップも考え始めている」と語る
TGRグローバルモータースポーツディレクターの加地雅哉氏は「次のステップも考え始めている」と語る

 今回決勝で8号車にホイールナットのトラブルが発生したが、その修復時に7号車のメカニックがサポートに回り、短時間でコースに送り出すことができた。そのように垣根がない雰囲気だから自然と笑顔が増える。

 この変化に対して、加地氏はこのように教えてくれた。

「可夢偉と一貴がチーム内のコミュニケーションをポジティブに活発にやってくれていますし、テクニカルデレクターのダビットも視野広く、色々なことを考えてくれています。後は笑顔で、みんなで戦い、みんなで笑う…‥という雰囲気ができているのかなと。ここは技術というよりマインドのほうが大きいですね。技術はル・マンで勝った先にあると思っていますので……」

 その感じはWRCやニュルのそれとよく似ており、まさに「家庭的でプロフェッショナル」な体制になりつつあることを実感できた。そんな印象を可夢偉氏に伝えると、嬉しそうにこのように答えてくれた。

「常にみんなにいうのは、『負ける時もみんなで負ける、誰もせいでもない』です。そういう気持ちでレースを戦うためには、『あいつの失敗』、『あいつの判断』ではなく、『チームみんなでやったこと』、『勝つためにどんなことができる』という気持ちが大事です」

「僕はチーム代表ですが、ドライバーの時は失敗もします。その失敗は真剣に勝つためにやろうとした結果ですが、『そういうメンタリティに追い込んでしまったことにも原因はあるな』と。それを踏まえると、誰かに『これをしないと勝てない』という責任を持たせることはダメで、そこは常に意識しています」

「そんなはずがない」といっていること自体ダメ

「家庭的でプロフェッショナル」という雰囲気がチーム内に醸成されてきた
「家庭的でプロフェッショナル」という雰囲気がチーム内に醸成されてきた

 これはモリゾウさんが常日頃から語る「自分以外の誰かのために」の考えが、チームに浸透しているのだろう。

 シンプルに考えると、TGRのWECチームは「BoPやルールの中で戦うためにはどうしたらいいのか?」を考えた結果、人の力に頼ってチーム力をカバーしてきた部分は大きいが、2025年の結果を見るとそれだけでは限界があることが見えたのも事実だ。

 とは言っても、現状はレギュレーションがあるので、マシンを大幅アップデートすることは正直難しい。そんな中で、今後どのような目標設定を立てるのだろうか。可夢偉選手はこのように語ってくれた。

「恐らく、見ている所が“小さい”のかなと。例えばライバルのラップタイムは我々の想定をはるかに超えていました。しかし我々は『えぇ、そんなはずがない』といっていること自体の意識がダメだったなと」

「となると、来年はより高い目標を持って取り組む必要がありますが、レギュレーションの問題で『それは無理でしょ』と決めつけず、『どうやったらより速いクルマを作れるのか』と純粋に考えるようなマインドにする必要がありますね。ただ、目標だけが先行してもダメなので、その見極めやバランスは非常に難しいですね」

「重箱の隅を突く」から「新しい箱を探しに行く」へ

ピット内に貼られた寄せ書き
ピット内に貼られた寄せ書き

 今年の様々なデータを見ていくと、フェラーリだけでなくポルシェもBMWもアルピーヌもこれまでの計算上では絶対出ない性能が出ているのは事実である。では、彼らを超えるためには何をやるべきなのだろうか? 可夢偉選手は続ける。

「これまでは我々には強いクルマあり、その中で性能をフルに発揮できれば勝てるという考えでした。しかし結果からも解るように、もっといいクルマにしていかなければダメです」

「そのためには、『BoPがこうだから、この中で』ではなく、そのリミッターを一度外してあげる必要があると思っています。つまり『重箱の隅を突く』から『新しい箱を探しに行く』考え。それをやることでメンバーの本当の力を見ることができ、その先に技術の進歩があると思っています」。

 つまり、枠の中で最善を尽くすから、まずは一度いろいろな意味で“枠”を取り払い『速くするアイデアを考えよう』というマインドチェンジが必要だということだ。それをトライした上で『レギュレーションの中で実現するには?』に落とし込む時に、新たなイノベーションが生まれるのはないかと筆者は考える。

 加地氏はこれに関して「我々のシステムは、古いモノに対して積み重ねて作ってきたモノが多い。もちろん積み重ねにより“実績”は間違いなくありますが、さらにステップアップするためには根本的に変えるチャレンジも必要でしょう。それをやることで新しいアイデアも生まれるはずです。エンジニアとしては楽しいと思いますよ。僕もエンジニアに戻りたいですよ(笑)」と。

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