導入が噂される「走行税(走行距離税)」とは? バイクはどうなる?

導入が噂される「走行税(走行距離税)」とは? バイクはどうなる?

 ガソリンの税金に関し、「暫定税率」の廃止が検討されるなか、新たな財源確保のために導入の話ができてきている新税のひとつが「走行税(走行距離税)」。平たく言えば「たくさん距離を走るクルマに多くの税金を掛けましょう」という制度ですが、具体的にどんなものなのでしょうか? また、もし導入されるとバイクはどうなるのでしょうか? 

文/平塚直樹

 
 
 

ガソリン暫定税率とは?

 まず、ガソリン税についておさらいすると、現状(2025年9月5日現在)では「揮発油税」(国税)と「地方揮発油税」(地方税)があり、各税率とその合計は、以下の通りになります。

「揮発油税48.6円/L」+「地方揮発油税5.2円/L」=「合計53.8円/L」

 ところが、実は上記は本来の税率とは異なり、特例税率、前述したいわゆる「暫定税率」が含まれているのです。

 この暫定税率とは、「一時的に課税される」種類のもので、もともとは道路財源の不足を理由として1974年に設定されたもの。2010年に一旦は廃止されたものの、すぐに同額分の特例税率が創設され現在も続いています。

 ちなみに、本来のガソリン税は以下の通りです。

「揮発油税24.3円/L」+「地方揮発油税4.4円/L」=「合計28.7円/L」

 つまり、現在のガソリン税は、暫定税率によって元々の税率よりも25.1円/L高くなっているのです。しかも、「一時的な課税」のはずが50年以上も続いています。

 さらに、問題視されているのは、当初の使用目的は道路特定財源だったのが、今では一般財源に充てられていること。元々、道路の整備などが目的だったはずなのに、さまざまな行政サービスに支出することができる一般財源に変えられていることも、前述した「税金の見直し」を求める人たちが問題視する点のひとつだといえます。

 ちなみに、ガソリンに課せられている税金には、ほかにも石油石炭税と地球温暖化対策税(石油石炭税に上乗せ)の合計2.8円/Lもあります。そのため、現在、ガソリンには、これらの合計56.6円/Lの税金が課せられていることになるのです。

 さらに、ガソリン価格には、これらの税に加え、消費税もかかっています。しかも、ガソリンの場合、消費税はガソリン税や石油石炭税(地球温暖化対策税も含む。以下、石油石炭税)と本体価格の合計額に10%課税されているのです。そして、この課税方式が「ガソリン税に消費税を課す二重課税」だと問題視されています。



現在、ガソリン価格には様々な税記が含まれている

 
 
 

走行税(走行距離税)とは?

 これらガソリン税のうち、現在、与野党で検討されているのが「ガソリン税の暫定税率廃止」。ただし、もし廃止した場合、その代替となる「税財源の確保が必要」といった論議もなされています。これは、暫定税率は前述の通り、一般財源化されてはいますが、依然として道路や橋、トンネルといった交通インフラの整備などにも使われているからだといいます。そのため、暫定税率に代わる財源がないと、新しい道路を作ったり、古い道路の補修などができなくなるというのです。

 そして、暫定税率に代わる新税のひとつとして検討されているというのが「走行税」もしくは「走行距離税」と呼ばれる税金制度です。

 そもそも、走行税の話が出てきたのは、2022年10月20日、参議院予算委員会で鈴木俊一財務大臣(当時)が、「走行税も1つの考え方」と言及したことがきっかけです。ですが、当時は、ハイブリッド車やBEV(電気自動車)など、ガソリンの消費量が少ない、もしくは全く使わないクルマが増えると、ガソリン税の収入が減るため、その穴埋め的な財源として言及されていたと記憶しています。

 この走行税について、当時、自動車メーカーなどの団体である日本自動車工業会が断固として反対。また、現在、ハイブリッド車はかなり売れていますが、BEV、FCEV(水素を使う燃料電池車)などは国内でさほど売れていないのも現状。バイクについても、EV車は徐々に販売されてきていますが、4輪車以上に普及は進んでおらず、依然として燃料にガソリンを使うモデルの方が一般的であるといえます。

 そういった背景のなか、その後、しばらくは走行税についてあまり話題に上がらなかったのですが、最近になって前述の暫定税率の代替税として話が復活。あくまで、検討段階のようですが、導入の可能性が再燃してきているようなのです。



そもそも走行税は、クルマやバイクでガソリンを使わないBEVが普及すると、ガソリン税の収入が減るということで話題となったもの(写真はホンダのEVスクーターCUV e: )

 
 

アメリカ・オレゴン州の導入例

 走行税については、まだ検討段階であるため、具体的な内容や実際に導入されるのかどうかは決まっていません。ただ、基本的には、「車両の走行距離に応じた税額を徴収」するものだといえます。



「車両の走行距離に応じた税額を徴収」するのが走行税

 ちなみに、海外では、たとえば、アメリカのオレゴン州では、「OreGO(オレゴー)」という走行税を導入しています。税額の計算は、車両にマイレージレポートデバイスという走行距離報告装置を装着して集計。走行距離に応じ1マイル当たり2セントのマイレージ税を徴収(2025年9月5日現在)しています。

 アメリカでは、ほかにも、カリフォルニアやミネソタなど州により独自の制度を実施。また、欧州でもオーストリアやドイツなど導入している国もあるようです。

走行税の問題点

 走行税については、もし導入する場合の問題点も指摘されています。

 たとえば、走行距離に応じ税額が増えると、クルマやバイクを重要な生活の足としている地方在住者にとっては、電車など公共交通が発達している都市在住者よりも負担が増えて、不公平感がでることが挙げられます。

 また、大型トラックなどの物流業界、バスやタクシーといった交通機関など、長距離走行が必須となる事業者も、税額が大きくなり、場合によっては深刻な経営ダメージを招く恐れを指摘されています。



走行税は物流業界などの負担が増えることが指摘されている

 加えて、車両には、走行距離を集計するなんらかの機器を装着しなければなりません。たとえば、車検の際、元々車両に付いているオドメーターで計算する方法もあるかもしれません。ただし、この場合、距離を偽造される可能性もあるので、確実とはいえません。そのため、海外では、GPS機器と連動した走行距離レコーダーなども利用されているようですが、GPSで車両の位置や移動距離を把握する場合は運転者のプライバシーが保護されないという問題もあるようです。

バイクはどうなる?

 さらに、バイクの場合、走行税の対象にするにはもっと難しい問題があります。

 たとえば、走行距離を測る機器を付ける場合、ETC車載器のように、バイクは搭載スペースが少なく、振動・雨風などに対する耐久性なども求められます。ETC車載器などと同様ですね、そして、そうした点をクリアするには、車載機器についてある程度コストが必要となり、それが車両価格などに反映されてしまうことも考えられます。そうなると、「税金のためにバイクが高くなる」といった問題も出てくることが予想されるのです。

 また、もし車検の際に、オドメーターで走行計算を計算する方式を採る場合、250cc以下の車検のないバイクは対象とならない可能性もあります。さらに、たとえば、ガソリンを使わないEVモデルだけを対象とする制度になることも考えられます。その場合、国内のEVバイク普及率はかなり低いのが現状。しかも、「ベンリィe: I」や「ジャイロキャノピーe:」などの商用EVも多く、結果的に、前述のような物流関連企業などへの負担が増す恐れも考えられます。



ホンダ・ジャイロキャノピーe:

 これらを総合的に考えると、クルマとバイクの両方で、走行税の導入はかなりハードルが高いことがうかがえます。また、もし導入するとしても、バイクは対象にしづらいことも予想できます。

暫定税率の廃止は代替財源がカギ?

 ガソリン暫定税率廃止については、決まりそうで決まらない状態がずっと続いています。たとえば、2024年12月、自民、公明、国民民主3党は廃止について合意しましたが、代替財源が決まらず、実施時期は先延ばし状態に。その後、野党7党(立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、日本共産党、参政党、日本保守党、社会民主党)が廃止法案を提出し6月11日に衆議院で可決したものの、当時は与党が多数を占める参議院で廃案となっています。

 そして、7月の参議院議員選挙の結果、参議院でも与党が少数に転じた状況下で、7月30日には「ガソリン暫定税率の廃止を2025年内のできるだけ早い時期に実施する」ことを与野党で合意。8月1日に、野党7党が廃止法案を再提出するに至っていますが、そこで出てきた問題が、またしても代替財源の問題。走行税の導入もそうした流れのなかでできたのですが、果たして導入の可能性はあるのか? また、導入する場合、どんな内容となるのかなど、今後の動向に注目です。



ガソリン暫定税率の廃止が実現するか否かは、代替財源を何にするのかもカギになりそうだ

 *写真はすべてイメージです

 

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/bikenews/485442/

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