「すぐ全部BEVになる」という「暴論」と理由【池田直渡の「EV急進派は負けたのか?」第1部】

「すぐ全部BEVになる」という「暴論」と理由【池田直渡の「EV急進派は負けたのか?」第1部】

 2025年の日本市場におけるBEVの販売台数は、全新型車販売台数のうち約1.6%にとどまった。いっぽう日本政府は「2050年のカーボンニュートラル社会達成」という目標を掲げ続けており、「2035年までに、乗用車における新車販売で電動車100%」も掲げ続けている(もちろん「電動車」にはBEVだけでなくHVもPHEVも含まれる)。こうした状況のなか、一時期世界中を巻き込んだ「BEV急進論、席巻論」は「踊り場にさしかかった」と言われている。そんな今だからこそ問いたい。「あの喧噪はなんだったのか」と、「BEVが席巻しないとなると2050年のカーボンニュートラル達成は可能なのか」と。本稿では自動車経済ジャーナリストの池田直渡氏を編集部へお招きし、「BEV急進論、席巻論はなんだったのか」と、「モビリティ社会はどうなるのか」を語っていただいた。全3回でお届けします(今回は第1回)。

文:ベストカーWeb編集部、池田直渡、画像:池田直渡、ベストカーWeb編集部、AdobeStock

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「EVを作ろう」と「EV以外は作るな」の違い

司会(ベストカーWeb編集部・角田伸幸、以下、角田): 皆さんこんにちは。ベストカーWeb編集部の角田です。さて皆さん、今回の講演を進めるにあたり、まずは最近のクルマ社会を振り返っていただきたいんですけども、2020年代はじめに、お祭りのような「BEVシフト急進論」が起きましたよね。ところがその後、あまりの急激な変化にいろんな矛盾が噴き出して、今は現実に即した多様な選択肢を用意しようという、いわゆるマルチパスウェイ的な戦略が注目されています。

 そこで今回は、「BEV急進派はなぜ負けたのか」と題して、なぜBEV急進論は急激に盛り上がって、急速に勢いを失い、で、結局のところ「カーボンニュートラル社会」は達成できるのか、そうなると代替ユニットはどうなるのか、そもそも日本の自動車産業はどうなるのかを、世界情勢や実状、日本の社会環境など、ファクトを整理しながらお届けします。お話を伺うのは、自動車ジャーナリストの池田直渡さんです。

自動車経済ジャーナリスト・池田直渡氏(以下、池田): はい、よろしくお願いします。

司会(角田): 池田さんは2025年10月、単行本『EV手のひら返しと日本の勝ち筋』を上梓されました。この本では世界的なEVシフトとその後に起きた「手のひら返し」を読み解きつつ、日本の自動車産業が持っている「隠された伝家の宝刀」について光を当てています。今回お話しいただくテーマとも関わりが深いので、気になる方はぜひお読みいただきたいと思います。それでは池田さん、よろしくお願いします。

池田直渡氏の最新著作『EV手のひら返しと日本の勝ち筋』発売中
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池田: ではまず、いま角田さんが仰った「EV祭り」を振り返ってみようと思います。以下、数年前、2021年頃の大手メディアの見出しを並べてみました。

「日本経済新聞:GMガソリン車 35年全廃」
「毎日新聞:メルセデス・ベンツ 全車EVに 2030年まで5兆円以上投資」
「日本経済新聞:ホンダ 世界販売すべてをEV・FCVに 40年目標」
「日本経済新聞:日産など車大手がEVシフト 開発生産で脱エンジン車」

という具合ですね。もう世界中の自動車メーカーが内燃機関(の開発と製造)をやめようとしている、と報道していました。

 ここでは、EV賛成派の中で(もかなり急進的で排他的な)「EV以外をやめるべき」という話をしていたんですね。で、その中で、打ち切り時期を、例えば2035年とか2040年とか、場合によっては即刻打ち切りみたいな意見を言い合っていたわけです。

司会(角田): ほう。

池田: いっぽうその話(内燃機関の開発製造打ち切り論)が広がってゆくときに、その頃「敵」としてターゲティングされていた相手、たとえばトヨタ自動車が何を言っていたかというと、「マルチパスウェイでいきましょう」と言ってたわけです。それは別に「EVを作らない」ということではなくて、「EV以外も継続すべき」と言っていた。だけどみんな「EVを作らなくてもいいってことか??」と思って攻撃していたっていうのが、大きなすれ違いなんです。

司会(角田): うん、うん、うん。

池田: トヨタももちろんEVを開発していたわけで、つまり大きな括りでいえばみんな「EV賛成派」で、その中でそれぞれ「普及や製造規模の時間軸」を見るうえでの差があっただけだった、というのが本来の姿だと僕は思ってます。

司会(角田): 普及の速度。なるほど。

池田: それと、あの頃はメディアがいろんな報道の仕方をしてたんですが、その裏側を見てみてみましょう。先ほど毎日新聞が「メルセデスベンツが2030年までに全車BEVにすべく5兆円以上投資すると発表した」と報じていた話がありましたよね。これ、元の、メルセデス側が出しているリリースにはなんて書いてあったかというと。

司会(角田): あ、これがリリースですね。

池田: そうです、当時のリリース。メルセデスは「全車をEV化する準備が、この10年の間にできる」としか言っていなかった。「End of the decade」ですから、「この10年の間にできる」と。そして、そこにはちゃんと条件がついていて、「where market conditions allow」、つまり「マーケットが許せば」と注釈をつけている。

司会(角田):え、あ、本当だ。

池田: この「マーケットが許せば」という部分が完全に落ちてしまって、しかも「準備ができた」だとか、そういう話は全部すっ飛ばして「もう変わるんだ」っていう文脈になっちゃっているわけですよ。このあたりは、恣意的な切り取りですよね。

司会(角田): 狙ってやっていたわけですね、メディア側も。

池田: こういうことがいっぱい積み重ねられたことによって、世の中全体として「もうEVにシフトするしかないんだ」と、「今さら内燃機関なんて誰も買わないよ」ぐらいの勢いになっていったわけです。

司会(角田):うーん、なるほど。

池田:じゃああれから4年たってどうなったか。いま新聞がどういう見出しを掲げているかっていうと、ええと、これは日経新聞です。

「フォード 3兆円の巨額費用計上 米補助金廃止でEV主力車種撤退」

「撤退」ですよ。それから『日経クロステック』は、ニデック永守重信氏について、「堕ちたEVシフトの罠 勝利の方程式は破綻 辞任の意味」。同じく『日経クロステック』が「市場見ぬEVシフトでつまずいた日産 人も工場も大リストラの初年度」。

『プレジデントオンライン』は「日本車潰しの目論見が裏目に出た 2035年新車の完全EV化を放棄したEUの致命的誤算」。これ、こないだまで書いていた見出しはどうなるんですかね。

司会(角田): ホントに手のひら返しですね……。

池田: まあ冷静に考えれば、BEV100%も内燃機関100%も、そんな簡単にできないんです。別に、これから先もずっと内燃機関で行く、内燃機関しかやらないよっていうのも難しいし、全部をBEVにするっていうのも難しい。それぞれの地域によって環境規制も違う、所得も違う、電力インフラの普及度も違う、気象状況も違う、道路環境も違うし使い方も違う。その中で一つの答えで全部を賄うっていうのは無理なわけです。

司会(角田):同じ国、地域でも、人によって事情も違いますしね。

池田: 僕、いつも言うんですけど、たとえばある日、誰かが「世界で靴のサイズを全部26センチに決めましょう」と言ったとします。で、もともと自分の足のサイズが26センチの人は、「最高ですよ。27センチとかもう履けませんね」って言うでしょう。でも、それはあなたの足が26センチだからでしょ、という話なわけです。それぞれみんな足のサイズは違うじゃないですか。その人の足のサイズに合わせて展開したほうがいいですよっていうのがマルチパスウェイであり、以前からトヨタが言ってきたことです。ところがある日、EV急進派の皆さんは「26センチしかダメだ」と言い出した。一時期、日本の経済紙の世論もそういう話になっていた。

司会(角田): 暴論ですね、ホントにね。

池田: そう、暴論なんです、例え話にするとわかるんだけど。この時には結局みんな、先進国の大都市のインフラを前提に語ってしまった。日本だって地方に行ったら充電インフラが全然整わないし、整えたところで採算に合わないわけですよ。だって鉄道だって走らせられないぐらい、どんどん廃線になってるぐらい人が移動しなかったりするわけです。そこに充電インフラをどんどん補強するって、あるいは更新していくって、やっぱりできないですよね。そうすると、地域によって、まあやりやすいところはあるでしょう、そういうエリアはEV化を進めればいいし、そうじゃないところはその地域に応じた、それなりのカーボンニュートラルのやり方をやっていくしかない、というのが僕は現実だと思ってますね。

欧州主導の「オールEV政策」の失速理由

池田: じゃあ、欧州主導のオールEV政策はなぜ失速したのか。これは大きく分けると、ポイントは三つあると思います。

司会(角田): ここ大事ですね。

池田: はい。一つ目は、そもそも(自由市場経済圏では)「何を買うかを決める権利があるのは、唯一、消費者なんですよ」ということ。政府が「これ買え」とかね、あるいはメーカーが「あなたたちはこれを買うべきだ」と言ったところで、黙って買うわけがないじゃないですか。たとえば『ベストカー』だって、読者に「いい雑誌だから、次号は100万部買え」って言えば世の中は買ってくれるか、っていうことじゃないですか。

司会(角田): 買ってくれませんね……。

池田: そんなことできるわけないでしょう。あるいは政府に頼んで「『ベストカー』を国民全員が買うように」って言ってもらったとしても、それでも買わないでしょ。

司会(角田): それでいいならもっと儲かってますね。

池田: だから、「どれを買うか決めるのは消費者だ」っていう経済の大原則が抜けていたわけです。BEVの開発・普及計画に関しては、一時期計画経済化して、共産主義みたいになっていました。それは無理だよね、と。

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