日本自動車界が黎明期の頃から活躍し、その文章力で「自動車評論家」という職業を確立した徳大寺有恒氏。
ここではそんな徳大寺氏が『ベストカー』に寄せてくれた原稿のなかから、特に選りすぐった試乗記、それも伝説級の名車について語ってくれたレポートを、特別にお届けしたい。
第1回となる今回は、初代ホンダNSX。デビュー時の1990年9月に掲載したものをWeb初掲載にてお届けします。
いまの試乗レポートとはひと味ちがう、「徳大寺節」をぜひお楽しみください。これが日本における最高峰の新車試乗記です。
文:徳大寺有恒
掲載 ベストカー2015年1月26日号「追悼特集 徳大寺有恒スペシャル」より
■NSXのドライブフィール
初めて日本の路上を走ったホンダNSXは、期待通りすばらしい走りを見せてくれた。280馬力、30kgm、ウェイトは1350㎏、上等だ。たいしたものだ。
少々濡れたこの日の箱根をNSXはカン高い音を立てて走り回った。VTEC、3Lユニットは軽快に回る。
しかし、それはやや軽すぎの感もなくはない。ただし、ただ回るだけでないところはたいしたものなのだ。
大きなトルクを伴って回転は上昇する。もちろん、それに伴って強力な加速がどこまでも続く。私が軽いといったのは〝やっぱり6発〟という印象も間違いなくあるからだ。たとえそれが世界一のV6であっても。
濡れた箱根のワインディングはコースにもよるが、セカンドがせいぜいというところ。セカンドの8000rpmはすでに120㎞/hなのである。コーナーを立ち上がり、次のコーナーへ向けて、私は少々気ぜわしそうにスロットルを開ける。
少しばかり長めのホイールベースを持つNSXは、こんな時まだリアタイヤはサイドフォースをうけていることが多い。
ほとんどどこからでも30kgmを発揮するVTECエンジンはリアの225/50ZR16タイヤを少しばかり滑らせるかもしれないが、それにかまわずスロットルを開け続ける。一瞬あとに完全に4輪は前を向き、伸びのある全力加速に入る。
VTECエンジンが自然吸気でよかったな、と思う瞬間である。エンジンの回転の高まり、そしてスロットルオフによる回転ダウン、そのどちらもいい感じなのだ。
V6にやや無念を残しつつも、〝こいつがなければ、このクルマはあり得ない〟とも思う。
私にとってはこの日がNSXを路上で走らせる初めてだというのに、すぐにこのクルマに慣れ、タイヤの限界以外ほとんどが駆使できることに驚き、かつ感心した。このことこそホンダが狙ったコンセプトではなかったか。
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