トヨタは2011年に、ダイハツ製OEM軽自動車のピクシススペースを発売した。これはダイハツ ムーヴコンテの姉妹車で、これ以降のトヨタは、軽自動車のピクシスシリーズを拡大している。
しかし、トヨタはその歴史の中で1度も軽自動車を開発したことがない。
今やホンダのN-BOXは日本一売れているクルマとなり、日産も三菱との協業で積極的に軽自動車に関与している。トヨタにしても、OEM車を販売しているということは、少なからず軽の必要性を感じている、と見ることもできる。
そうした事情があるにも関わらず、なぜトヨタは軽自動車を自社開発しないのだろうか。
文:渡辺陽一郎
写真:TOYOTA、DAIHATSU、編集部、NISSAN
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ダイハツの軽自動車本格化 実はトヨタとの提携後だった?
トヨタが軽自動車を自社開発した経験はないが、過去を遡ると、ほかのメーカーと同じく小さなクルマ作りには取り組んだ。1955年に通商産業省(現在の経済産業省)自動車課が、国民車育成要綱案を発表したのがきっかけだった。
その概要は、エンジン排気量が350~500ccで乗車定員は4名。最高速度は100km/h以上、燃費は30km/L以上で、価格は25万円以下というものだ。
この要綱案を検討したところ、最終的には実現不可能と判断されている。特に25万円の価格に無理があった。1955年に発売された軽自動車のスズキ スズライトは当時の価格が42万円、1958年発売のスバル360も42万5000円だったから、25万円は非現実的であった。
それでもトヨタは、この要綱案に合わせ、1956年に1A型試作車を開発した。ボディは全長が3650mm、全幅は1420mmの2ドアで、エンジンは4サイクル空冷水平対向2気筒698cc。駆動方式はスズライトなどと同じく当時では斬新な前輪駆動だった。
これを後輪駆動に改めて開発を続け、1961年に小型車のパブリカとして市販している。国民車育成要綱案は廃案になったものの、国産メーカーが小型車を開発する時の指標になった。
そして1967年には、日本政府が資本自由化の基本方針を打ち出し、日本メーカーにも国際競争力が求められた。これによって生じたのが自動車業界の再編で、トヨタとダイハツは同年に業務提携を結んだ。
ダイハツは、1960年代後半にトヨタと業務提携を結んで今に通じる受託生産に乗り出し、軽乗用車市場にも参入した。つまりダイハツは軽自動車事業も、トヨタと手を組んで本格化させたことになる。
一般的にはトヨタが軽自動車メーカーだったダイハツを傘下に収め、トヨタグループを強化したように受け取られるが、実際はダイハツが軽自動車市場で成長する時には、すでにトヨタと提携していた。
トヨタは「最も恐れた軽自動車」を仕方なく売った?
トヨタにとってもダイハツは欠かせない提携相手だから、その主要市場になる軽自動車に乗り出すことはなかった。また1970年に111万台だったトヨタ車の国内登録台数は、1980年に149万台、1985年は168万台、1990年には250万台に達する。
このように小型/普通車で急成長していれば、1台当たりの粗利が少ない軽自動車を扱う必要はなかった。
ところが1990年代の中盤以降は、トヨタの国内販売が激変する。
1995年は206万台に下がり、2000年は177万台、2010年は157万台まで急降下した。1990年から2010年までの20年間で、トヨタの国内登録台数は93万台、比率に換算すれば37%減っている。
この過程でトヨタが最も恐ろしく感じた競争相手が軽自動車であった。軽自動車の国内届け出台数は、1990年には180万台だったが、1999年には188万台に増えて、2006年は202万台に達した。トヨタ車が37%減る一方で、軽自動車は1998年の規格変更などを経て車種も充実させ、売れ行きを12%増やした。
しかも、軽自動車の好調な販売を支えるのは、トヨタ車を始めとする小型/普通車からのダウンサイジングだ。軽自動車が急速に増殖して、国内の自社市場を食い荒して行く。
恐怖を感じて当然だ。背景にはリーマンショックのために、2010年に発売されたトヨタ ヴィッツなどの質感が従来型に比べて著しく低下したことなども影響した。
そこで2011年に、トヨタはダイハツからOEM車のピクシススペースを導入した。トヨタの顧客が軽自動車に乗り替えるのは避けたいが、説得しても無理な場合、ピクシススペースに誘導して顧客流出を防ぐのが狙いだった。
このような事情だから、ピクシススペースを扱う当時の販売店からは、
「軽自動車を売っても儲からない。販売会社の受け取る1台当たりの粗利とセールスマンの歩合が、小型/普通車に比べて大幅に少ない。商品をラインナップしながら、積極的に売らないよう仕組まれている」
という話も聞かれた。まさに仕方なく軽自動車を扱った。
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