トヨタはなぜ軽自動車を自社開発しないのか? 世界の巨人が最も恐れた競争相手?

人気車ルーミー/タンクは“軽自動車対策”で生まれた?

2020年4月は登録車販売ランキングで8位に入ったルーミー。軽自動車への過度な乗り替えに対する回答としてトヨタが急遽開発したクルマと渡辺氏は指摘

 そして2014年には、トヨタにとって状況が一層悪化した。同年初頭に発売された先代スズキ ハスラーが好調に売れ、ダイハツとの販売競争が激化したからだ。

 販売会社が在庫車を届け出して販売台数を粉飾する自社届け出も活発に行われ、2014年の軽自動車届け出台数は、史上最高の227万台に達した。

 自社届け出もあったから、すべてがユーザーの手にわたったわけではないが、統計上は国内で新車として売られたクルマの41%が軽自動車になった。

 トヨタの国内販売は依然として伸び悩み、2014年は1990年に比べて40%減少したが、軽自動車は26%増えた。小型/普通車のユーザーが、次々と軽自動車に乗り替えるトヨタにとって恐ろしい光景が展開された。

 そこで生まれた商品企画が、トヨタ ルーミー&タンク/ダイハツ トール/スバル ジャスティだ。

 2014年にはハスラーも好調に売れたが、同年の販売1位はダイハツタント、2位はホンダN-BOXだ(両車とも先代型)。いずれも全高が1700mmを超えるボディで車内が広く、後席を畳めば自転車などの大きな荷物も積める。

 これと同様の機能を備えた登録車を作れば、軽自動車への顧客流出を食い止められると考えた。

こちらはダイハツブランドのトール。トヨタのルーミー/タンクと合わせて姉妹車として高い人気を誇る

 ただし、時間がない。そこでダイハツに大急ぎの開発を要請した。ルーミー&タンクの開発者によると「開発に要した期間は2年少々」だから、2016年11月の発売から逆算すると2014年9月頃に開発を始めている。ダイハツ対スズキを軸に、軽自動車の販売合戦が激化した時期だ。

 短期間の開発には無理があった。

 開発者によると「新しいプラットフォーム(今のDNGAの考え方に基づくタイプ)は完成しておらず、パッソ&ブーンと同じタイプを使った。エンジンも同様にパッソと同じ直列3気筒1Lに絞られた」という。

 パッソ&ブーンのプラットフォームは、もともと900~950kgの車両重量を想定したが、ルーミー&タンクは背が高くスライドドアなども装着するから、最も軽いグレードでも1070kgだ。100kg以上重く、全高も1700mmを上まわるから重心も高い。走行安定性と乗り心地に不満が生じた。

 車両重量の増加に応じてターボも用意したが、頻繁に使う2000回転前後のノイズが耳障りだ。開発者に尋ねると「ターボのノイズは開発過程で重点的に対策を行ったが、充分に抑え切れず、時間切れになった」と述べた。

それでも日産・ホンダと異なるトヨタの「軽に対する姿勢」

日産のデイズと三菱のeKシリーズ。開発は三菱主体ながら日産も企画に入り、単にOEM車を売るだけではなく、軽自動車事業に積極的に関与

 もともとトヨタはダイハツの立場を尊重して軽自動車を任せていたが、軽自動車市場の拡大で自社もOEM車を扱い、なおかつ対抗策としてルーミー&タンクも商品化するようになった。

 それでも完全子会社にダイハツがあるため、ホンダのように軽自動車の依存度を極端には高めていない。ホンダでは、2019年度に国内で新車として売られたクルマの内、N-BOXが36%を占めた。軽自動車全体なら52%に達する。

 日産は2002年に、スズキ MRワゴンのOEM車をモコとして発売。当時、日産車ユーザーの22%が軽自動車をセカンドカーとして併用しており、これを日産ブランドのモコに変えれば拡販を図れると考えた。

 この時点で軽自動車の役割は、小型/普通車の販売を支援する脇役だったが、売れ行きが伸びて次第に主役へ変わっていく。

 日産は三菱と合弁会社のNMKVを立ち上げ、2013年には共同開発した先代日産デイズ&三菱eKスペースを発売した。今では日産も、国内新車販売台数に占める軽自動車比率が38%に達する。

 日産、ホンダともに小型/普通車の車種数を減らす動きもあるから、今後はますます軽自動車への依存度と販売比率が高まる。

 この動きが行き過ぎると、軽自動車の税金がさらに高まって高齢者を困窮させたり、販売会社の経営を圧迫する。クルマ好きには選べる車種が減る。

 小型/普通車も軽自動車のように日本のユーザーを見据えた開発を行い、40%近い軽自動車比率を25%程度に抑えるべきだ。

 特にホンダと日産は、トヨタと同様、軽自動車との距離をもう少し離したい。軽自動車のユーザーと商品を守るために、小型/普通車を強化したい。

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