2020年8月31日の正式発表を控える、トヨタの新型クロスオーバーSUV「ヤリスクロス」。すでに先行予約の受付が開始されているが、その滑り出しは絶好調のようで、情報では、年内生産分の予約が埋まり、今後の納期は早くも2021年にずれ込みそうだ、という。
ヤリスクロスは、その名の通り、ヴィッツの後継として2月に登場した「ヤリス」のクロスオーバーバージョンだ。ヤリスはハンドリングが軽快な快速コンパクトカーであるが、クロスオーバーバージョンとなれば、必然的に車高があがることから、ハンドリング性能には、正直期待をしていなかった。
しかし、蓋を開けてみてびっくり。ヤリスクロスは、ベースであるヤリスに迫る勢いのハンドリング性能を持ち合わせていたのだ。7月に袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催されたメディア向け試乗会では、筆者も含め、多くの参加者がその走りに魅了されていた。
なぜヤリスクロスは、SUVであるのにこれだけのハンドリング性能を実現することができたのだろうか。ヤリスクロスの担当エンジニアの方達から伺った開発秘話も交え、ヤリスクロスのハンドリング性能の秘密に迫っていく。
文:吉川賢一/写真:NISSAN、HONDA、Audi、ベストカーWEB編集部/撮影:池之平昌信
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追従性が素晴らしい
ヤリスクロスのメディア向け試乗会当日は、途中から会場周辺を局地的豪雨が襲い、クルマを走らせれば、路面に溜まった水が、スプラッシュマウンテンのように吹き上がる、という悪条件だった。
そのため、確認ができたのは、加速性能とハンドリング、ブレーキングといった動性能が中心であり、ロードノイズや車体振動といった音振性能を確認することはできなかったことを前提として記しておく。
このヤリスクロスの特筆すべき長所は、何といっても「操舵フィーリングの良さ」だ。「きびきびとしたハンドリング」と、よくいわれるが、これは一般的に、ハンドル舵角に対するヨーレイトの大きさを表す。ヤリスクロスは、それとはちょっと違い、ハンドル操作に対する「追従性が良い」という表現の方が適切だ。
ヤリスクロスは、ステアリング入力をしてからクルマの鼻先が動き出すまでの「タイムラグ」が少ない。ステアリングのギア比をクイックにしても、そのような動き出しにならないクルマもあるなかで、ヤリスはさほどクイックなギア比ではないにもかかわらず、追従性が良かったのだ。
しかも、16インチ仕様であっても、大まかな操舵フィーリングは変わらずに良い。しかも大雨で接地感を失いやすい路面条件だったのに、だ。これには驚かざるを得なかった。ヤリスクロスは、ヤリスをリフトアップしただけのSUVではなかった。
その要因は「リアサスと車体」にある
その要因はいくつか思い当たる。ひとつは、欧州ヤリスのリアサス(トーションビーム形式)を採用したことで、リアトレッドが50ミリ拡大し、安定感が増していること、そして、リアサスペンションの横剛性が向上したこと、が、効いていると考えられる。
そしてもうひとつが、軽量かつ高剛性に仕上げられた、GA-Bプラットフォーム採用による車体の進化だ。
GA-Bプラットフォームは、ヤリスにも採用されたコンパクトカー向けの次世代車体であり、部分的な補強だけではなく、エンジンはエンコンの真ん中におく、サイドメンバーは真っすぐに通す、といった設計理念を入れ込むなど、イチから設計を見直し開発されたプラットフォームだ。
上屋側はステアリングメンバーとインパネ、そしてカウルトップまでを環状構造となるように強化した基本骨格を形成、アンダーフロアでは衝突対策のためにレインフォース(補強部材)を追加。これは、欧州車が補強する部位と同じだ。その結果として、ヤリスクロスは、欧州車に近い「ハンドリングの味」を出すことに成功したのだ。
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