自動車は基幹産業であると同時に、嗜好品的な性格、さらにいえば賭博性も伴う。例えばアルファードのように、フロントマスクをマイナーチェンジで少し変えただけで、売れ行きが大幅に伸びることもある。
ユーザーは正確にクルマを選ぶから、機能の劣った商品が好調に売れることはない。販売ランキングの上位に入るのは、いずれも優れた商品だが、デザインや販売戦略によって売れ行きが伸び悩む場合は多い。
他メーカーのライバル車、あるいは自社商品との競争も生じる。特に今は後者の影響が大きい。懇意にしている販売店やセールスマンとの付き合いもあるから、できれば乗り替える時にメーカーは変えたくない。そのなかで魅力的な車種を探すと、身内同士の競争が発生する。
このように、発売当初は好調だったのに、ライバル車にまくられてしまった人気車とその理由とは?
文/渡辺陽一郎 写真/TOYOTA、MAZDA、HONDA
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■トヨタ アクア
身内との競合で売れ行きを下げたのがアクアだ。1.5Lエンジンのハイブリッドのみを搭載する5ナンバーサイズのコンパクトカーで、発売された2011年には、売れ筋グレードのJC08モード燃費が35.4km/L(後に37km/Lに向上)に達して話題を呼んだ。
2012年と2013年の登録台数は、月平均で約2万2000台前後に達した。2014年も約2万台だ。2013~2015年には、プリウスの売れ行きが下がったこともあり、小型/普通車の登録台数1位になった。
しかし、2016年以降は人気が下がり始める。発売から時間が経過して新鮮味が薄れ、前年にはプリウスが現行型にフルモデルチェンジして売れ行きを回復させたからだ。アクアの登録台数は2015年に比べて22%下がった。
さらに2016年末には、先代ノートにハイブリッドの「e-POWER」が加わって人気車になり、2017年1月にはヴィッツもアクアと同タイプのハイブリッドを用意した。アクアは需要を奪われ、売れ行きをさらに22%下げた。
2018年は横這いで、2019年には18%減ったものの登録台数の上位には位置したが、2020年は大幅に下がった。対前年比が43%減り、売れ行きはヴォクシーやハリアーよりも少ない。
アクアの売れ行きが急落した一番の理由は、2020年2月に実施された新型ヤリスの発売だ。プラットフォーム、ノーマルエンジン、ハイブリッドまですべての機能を刷新して、ヤリスハイブリッド「G」のWLTCモード燃費は35.8km/Lに達する。
アクア「G」の同27.2km/Lを大幅に上まわった。数値上はヤリスなら燃料代をアクアと比べて24%節約できる。
ヤリスの後席はアクアと同様に狭いが、衝突被害軽減ブレーキは右左折時にも作動する。車間距離を自動調節できるクルーズコントロールなども備わり、価格と装備のバランスはアクアと同程度だ。そうなればヤリスハイブリッドが断然買い得になる。
しかもヤリスを2020年5月以降は全販売店でトヨタ全車を買えるようになった。その結果、もともと全店が扱っていたアクアは、ヤリスに需要を奪われた。
このようにトヨタの場合、全店で全車を扱う体制への移行が販売面に大きな影響を与えた。以前はトヨタ店やトヨペット店のユーザーがコンパクトなハイブリッド車を買う場合、多少古くてもアクアを選んだが、ヤリスも全店扱いになればその必要はない。アクアの需要は身内のヤリスハイブリッドに奪われた。
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