乗用車のバリエーションを見ると、大半の車種に、エンジンや装備の組み合わせに応じて複数の「グレード」が設定されている。
このうち、売れ筋になるのは、機能が充実した中級から上級のグレードだ。そうなると価格が最も安いグレードには、どのような役割があるのか。それを考えてみたい。
文/渡辺陽一郎 写真/MAZDA、TOYOTA、HONDA、編集部
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■目的別最安グレード【1】法人やレンタカー向け
最安グレードを設定する目的はさまざまだ。コンパクトカーに多いのは、法人ユーザーやレンタカー向けになる。
例えばヤリスなら、直列3気筒1Lエンジン搭載車に、「X・Bパッケージ」が設定されている。「X」から衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能をカットしたものだ。
重要な安全装備をはずした仕様だから推奨はできない。しかも価格は「1.0X」に比べて6万円安いだけだ。クルマの装備は、製造コストのレベルでは驚くほど安く装着されるので、はずしても価格をあまり下がらない。
従って「X・Bパッケージ」は、一般ユーザーには選ぶ価値の乏しい仕様だが、コンパクトカーにはこのような最安グレードが設定されている。
■目的別最安グレード【2】燃費スペシャル
ハイブリッド車の場合、燃費数値を高めるためのグレードを設定することも多い。いわゆる燃費スペシャルで、ボディを軽くするために、装備を省いたり、燃料タンク容量を小さく抑える。
燃料タンク容量を減らすといっても、タンク本体を小さく軽量化するわけではない。単純に容量を抑えるだけだ。クルマの車両重量は燃料を満タンにして計測するから、搭載できる燃料が少なければ軽量化したのと同じ効果が得られ、燃費数値を有利にできる。
燃料タンクが小さいと、満タンで走行できる距離も短くなってユーザーの不利益になるが、このような仕様が用意されている。そして燃費スペシャルは装備を省くから、先に挙げた法人やレンタカー向けのグレードと兼用されることも多い。
例えばプリウスの燃料タンク容量は、大半のグレードが43Lだが、「E」は38Lだ。「E」は車両重量も軽く、「S」を30kg下まわる1320kgになる。
その結果、WLTCモード燃費は「S」が30.8km/Lだが、「E」は32.1km/Lに向上した。「E」は装備もシンプルだから、価格は260万8000円で、「S」よりも4万7000円安い。最安で燃費数値は最良だ。
ノート「F」も、燃料タンク容量をほかのグレードに比べて4L少ない32Lに抑えた。WLTCモード燃費は、ほかのグレードが28.4km/Lで「F」は29.5km/Lになる。
この数値はフィットe:HEV「ベーシック」(これも燃料タンク容量は同じだが装備を省いた燃費スペシャルだ)の29.4km/Lを辛うじて上まわったが、特に優れた数値ではない。
このほかヤリスハイブリッドのWLTCモード燃費は35.4~36km/Lと優秀だが、燃料タンク容量は36Lだから、ノーマルエンジン車に比べると4L少ない。
なお燃費スペシャル的なグレードは、販売が低迷するから、発売から少し時間を経過すると廃止されることも多い。前述のノート「F」も、受注台数全体に占める比率は0.2%で、ほとんど売れていない。
ノートにとって本当に必要なグレードなのか、開発者に尋ねると「e-POWERの低燃費を訴求するために設定したが、今後は廃止される可能性もある」と述べた。
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