ステイホームなのに二輪事故はなぜ増えた? 東京都が53年ぶりワーストの死亡事故数

ステイホームなのに二輪事故はなぜ増えた? 東京都が53年ぶりワーストの死亡事故数

 コロナ禍に見舞われた2020年。ドライバーやライダーの心にも深い影を落とした――!? 2020年における交通事故統計を精査すると、様々な興味深いデータが明らかになった。

 全国の交通事故死亡者数では、東京都が53年ぶりにワーストの座に就任。実に1967年(昭和43年)以来の不名誉な栄冠を得てしまった。この記録の主な要因となったのがバイクの死亡事故。増加が目立ち、前年から12人増の40人が亡くなった。さらに全国的に見てもライダーの死亡事故が大幅に増加しているのだ。

――なぜ東京で? なぜバイクが? 警視庁に原因を直撃してみた。

文/沼尾宏明、写真/沼尾宏明、Motorcycle Information

【画像ギャラリー】あの時期都内の道はガラガラだったが、そこでどうして事故が増える?


都内の交通量は減ったのに死者数は22人も増加

 警察庁が2021年1月4日に発表した「令和2年中の交通事故死者数について」によると、全国の死者数は2839人。前年から376人減(11.7%減)で、5年前から更新していた戦後最小記録をまたも更新した。最後に1万人を超えた’95年から減少傾向が続いており、3000人を下回るのは、事故死者数の統計が残る1948年以来初。「交通戦争」と呼ばれ、死者数がピークだった1970年の1万6765人と比べ、6分の1にまで減少した計算だ。まさに「隔世の感」である。

 なお、交通事故発生件数も大幅に減少。7万2237件マイナスの30万9000件で、負傷者数は9万3174人減の36万8601人だった。

 そんな中、死者数が増加してしまったのが東京都だ。都道府県別に見ると、ほとんどが減少する一方で、前年から22人増の155人に。前年最多だった千葉は5位(172→128人)、2018年まで16年連続ワーストの愛知は2位(156→154人)。東京都は53年ぶりに全国で最悪の数字を記録した。

2020年のワースト5はご覧のとおり。前年1位の千葉は5位に改善され、逆に前年5位の東京が1位に。()内は前年
2020年のワースト5はご覧のとおり。前年1位の千葉は5位に改善され、逆に前年5位の東京が1位に。()内は前年

 緊急事態宣言が出された2020年4~5月、都心部の道路はガラガラだったことが筆者の記憶に新しい。「事故は減るだろうな」と思っていたが、逆の結果になってしまったのだ。事実、日本道路交通情報センターのデータによると、都内の渋滞量は2020年3月で前年比約16%減、同4月においては同45.5%も減少していた。

この結果には小池都知事もビックリ!? 写真は都内で2019年に開催されたバイクの日イベントの様子
この結果には小池都知事もビックリ!? 写真は都内で2019年に開催されたバイクの日イベントの様子

「車両速度が上がって事故が重大化した」と警視庁は分析

 東京都を管轄する警視庁に、53年ぶりのワーストを記録した理由について書面で尋ねてみると、「令和2年中における都内の交通事故発生状況については、発生件数および負傷者数は減少しました」とまず牽制が(?)。

 確かに警視庁の統計を見ると、交通事故発生件数は前年から3万467→2万5642件、負傷者数は3万4777→2万8888人と減少している。

 「しかしながら、死者数は増加し、53年ぶりに全国ワーストワンとなりましたが、年推移で見ますと、令和元年、平成30年に次いで、戦後3番目に少ない死者数であり、人口10万人あたり死者数では、全国平均2.25人のところ、全国最小である1.11人でありました」という。

 “53年ぶりのワースト”を認めながらも、実は“少ない”数字であるとしている。とはいえ、前年最多の千葉や、ワースト常連の愛知も同じ条件下ながら、死者数は減少しているのだが……。

53年ぶりの不名誉な記録について警視庁の見解を聞いた
53年ぶりの不名誉な記録について警視庁の見解を聞いた

 肝心の死者数が増加した要因に関しては、「複数の要因が積み重なったものと考えており、一例として、緊急事態宣言下において都内の交通量が減少した影響により、車両の速度が上がったことで個々の事故の重大化につながったことや、『コロナ禍』の観点では、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、交通安全イベントや交通安全教育等が実施できず、例年に比べて、都民国民の皆様に、交通安全に関する意識付けの浸透ができなかったことも要因でないかと推察されます」との回答だった。

 “平時は混んでいる道が空いていたので、ついついスピードを出しすぎてしまった”ことは、運転者として理解できる心理だし、様々な報道でも事故増加の原因として分析していたが、警視庁も同じ見解だった。

 また、「交通安全イベント」が事故減少に効果的、と警視庁は捉えている。個人的には、イベントによる事故の抑制効果にいささか懐疑的なので、意外な回答だった。

バイクの死者数が目立つのは「前年が少なかった」から?

 都内の死者数を車種別に見ると、バイクが非常に目立つ。原付(50cc)運転中の事故死者数は4人増の6人、自動2輪運転中(51cc以上)では8人件増の34人を記録し、合計では14人増の40人。4輪運転中は前年と同じ10人、自転車は1人増の34人、歩行中は10人増の67人だった。

 増加数が2番目に多かった歩行中の事故は、交通量が減ったため、無理に横断して事故を引き起こしたことが原因と思われる。犠牲になっているのは主に65歳以上の高齢者。2020年4月には、見通しの良い片側3車線の直線道路で、赤信号の横断歩道を渡ったと見られる90歳女性が乗用車に跳ねられ、死亡するなどの事件が起きている。

 そして最も増加したのが2輪。都内全体の死者数のうち4分の1をバイクが占める。

2020年における都内の死者数は、4分の1がバイクが原因。全国と比べても都内はバイクの割合が高い(警視庁資料より作成)
2020年における都内の死者数は、4分の1がバイクが原因。全国と比べても都内はバイクの割合が高い(警視庁資料より作成)

 バイク事故の死者数が増加した理由に関して、警視庁では、「都内の特徴として、2輪車事故が全国より高い状況にありますが、一昨年(2019年)は、2輪車の死亡事故が過去10年で最も少ない状況で、去年はこの状況を継続することが困難でした」と回答。

 つまり2019年の死者がとりわけ少なかったため、2020年が目立ったというのだ。調べてみると、確かに2012年から年間40人前後で推移しており、2019年だけ28人と極端に少ない。とはいえ、交通量が減った中での増加は、やはり異常事態だ。

都内における2輪車の交通人身事故発生状況。確かに令和元年(2019年)は例年より少ない。令和2年(2020年)は従来通りの数字と言えるが……(出典:警視庁)
都内における2輪車の交通人身事故発生状況。確かに令和元年(2019年)は例年より少ない。令和2年(2020年)は従来通りの数字と言えるが……(出典:警視庁)

バイク通勤+リターン+新規免許取得者が要因か

 さらに回答は続く。「昨年の2輪車死亡事故の特徴としては車両単独事故が増加したこと、50歳代の死者が増加したことなどが挙げられ、『コロナ禍』における生活様式の変容により、公共交通機関から2輪車利用へシフトされたことも要因の一つではないかと推察されます」とのこと。

 年齢層別の死者数で最多は50代の12人(前年比9人増)。コロナ禍で“密”を避けるために、バイクで通勤を始めた50代ライダーが死者数を押し上げた格好だ。おそらく1980年代のバイクブーム期に免許を取り、バイク通勤で再び“リターン”したライダー達だろう。

 一方で若年層も多い。50代に続いたのが、20代の8人(2人増)だ。これはバイク通勤を始めた免許取り立ての若いライダーと考えられる。都内で2020年に2輪免許を取得した件数は4万2441件で、2019年から3035件増加した。免許取得後、運転に慣れず事故に遭ったケースもあったことだろう。

年齢層別の都内における2輪事故死者数。過去5年平均より50代が9人も増加した(出典:警視庁)

 死亡事故の状況では、「車両単独」が5人増の14人。「右折時」の10人(1人増)、「追突」8人(6人増)も目立つ。場所は「交差点」(19人)が最多で、「単路」(18人)がほぼ同数。これは、前方不注意や速度超過による追突が主な原因と思われる。

 そして死亡事故が発生した時間帯別では、出勤にあたる8~10時、退勤にあたる18~20時に集中。バイク通勤での死亡事故が増えたことを裏付けている。

全国ではバイクのみ死者数が増加していた

 全国的に見ても、バイク乗車中の死者は大きく増えた。

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