電動化加速でクローズアップ。かつて三菱 ランサーエボリューション MIEVの試作車でも話題となった、インホイールモーターの現在地は?
燃費規制の強化やカーボンニュートラルなどが声高に叫ばれるなか、クルマの電動化が今後ますます加速していきそうな気配。そのなかで電気自動車(EV)への注目度も上がってきているが、今から10年以上前から画期的なEVとして提案されていたのが、インホイールモーターだ。
文字どおり四輪の各ホイールの中にモーターを配す仕組みで、2007年の東京モーターショーには、ランサーエボリューションMIEVも出展されている。
夢の技術の現在地は果たしてどうなっているのか?
文/国沢光宏 写真/MITSUBISHI
【画像ギャラリー】三菱超名門車 ランサーエボリューション 歴代モデル 全17枚!!
バイクではすでに実用化! インホイールモーターのメリットとは?
インホイールモーターという技術はご存じだと思う。ホイールにモーターを組み込んだ駆動システムだ。
すでに電動アシスト自転車や電気バイクなど、基本的にインホイールモーター(ハブモーターとも呼ばれる)を採用している。デフもドライブシャフトも不要になるため、軽量化ができるし、部品点数だって大幅に減らせるメリットを持つ。
4輪車の場合、4つの車軸をインホイールモーターにすることで、駆動系はホイールだけで完結する。また、前後左右の駆動力配分だって自由自在。いわゆる「トルクベタリング」(戦車のように左右の駆動力差で曲がる技術)も簡単にできる。実際、ランエボMiEV等、試作車には数多く使われており、効能も確認されています。
しかし! 依然として実車に採用されるという方向とならない。すでに世界中で100車種以上の市販電気自動車があると思われるが、インホイールモーターを採用したメジャーブランドは存在せず(超小型中華電気自動車には採用例あり)。なぜインホイールモーターを使わないのだろうか? 以下、いくつか理由を紹介したい。
なぜインホイールモーターはなかなか量産されない?
最大の弱点は重量。自動車用の大出力モーターを手で持った経験のある人ならわかるとおり、小さくても重い!
クルマを走らせようとすれば、ヤリスのようなBセグメントで最低で1輪あたり30馬力程度の出力が必要。インホイールモーターを作るとなれば、ホイール重量+タイヤ重量+モーター重量になるため、下を見て30kgにはなる!
そのうえ、ブレーキだって組み込まなくちゃならない。加えてすべてバネ下の重さだから、路面追従性で厳しくなることは容易に想像できることだろう。
バネ下重量ってバネ上重量より10倍走りに悪い影響を与える。鏡のようなように滑らかなテストコースだったら問題ないが、デコボコした路面だと酷い乗り心地になるワケ。
もっと大きな問題になってくるのは安全面。インホイールモーターでの駆動、左右の駆動輪を連結させない。もし片側モーターにトラブル出て駆動力ゼロになったとしよう。
すぐ逆側の駆動力抜くのだけれど、実験をやったデータを見せて貰ったら横風受けた時のように駆動力を失った方向へハンドル取られる。100km/h走行時だと2mくらい振られるほど。
この試験でインホイールモーター推進派は「横風と同等なので問題なし」と結論出したが、とんでもない! 横風って突如吹くわけじゃない。天候悪い時のみ。運転している側だって予想しながら走っている。風のない日にユッタリした気分で走っていて突如強い横風を受けたら、間違いなく隣の車線くらいまで流されるだろう。
そこに他の車両が走っていたら衝突する。参考までに書いておくと、NSXやレジェンドは、左右輪を別個のモーターで稼働させているものの、トラブル発生したら左右輪の駆動力差をワンウェイクラッチで瞬時に消すという安全システムになっています。安全性の確保、インホイールモーターにとって大きなハードルになっていると思う。
さらにロバスト性や耐久性での課題も残る。走行中、大きな衝撃を受けると重いため壊れやすい。軽微な変形であっても回転体のため大きな振動を出すことになる。
交換ということになったら、ホイール1本の価格と思えないような出費になってくるだろう。冷却だって大きな課題。モーター、小型化すれば冷却しなければならない。
空冷なら簡単ながら、水たまりにでも入ったらオシマイ。当然ながら水冷になるが、それぞれの車軸に冷却系を加えなければならず、コストと重さで負担になる。高電圧系のケーブルの取り回しも複雑。
特にステアする前輪用は耐久性だって重要だ。といったことを考えていくと、ホイールインモーターより普通に2軸を駆動する方がリーズナブル。
コメント
コメントの使い方