エンジンフードを開けたとき、油圧で「すーっ」と開いてくれる「ボンネットダンパー」。ボンネットステー(鉄の棒)を使うこと無く、ボンネットを開けた状態を保持できるので、見栄えも作業性も良い。国産の高級車には当たり前につくようになったが、国産コンパクトカーではほとんど採用されていない。
もちろん、「コストがかかるから」ということはあるだろうが、これひとつつけるだけならそれほどかからないのでは?? とも思える。ボンネットダンパーがコンパクトカーに採用されていかないのはなぜだろうか。
文/吉川賢一、写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】ダンパーで保持する……ステーで保持する……あなたの愛車のボンネットの開け方は!?
■メンテンナンスフリーとするため
一般のユーザーがエンジンフードを開ける機会は少ないかもしれないが、クルマに興味がある方や、自動車関連の仕事をされている方であれば、エンジンフードを開けることは日常的にあるだろう。
筆者も常日頃、様々なクルマに乗せていただくため、必ずエンジンフードを開けて、エンジン周辺や、車体構造を、じろじろと見て回る。
欧州系の高級車メーカーのDセグメント(BMW3シリーズ、メルセデスCクラス、アウディA4など)以上のサイズのクルマだと、ほとんどがボンネットダンパーを備えている。
また国産車でも、クラウンやレクサス、フーガ、スカイラインなど、いわゆる「高級車」といわれるようなクルマは、大抵、ボンネットダンパーを備えている。
なぜなら、こうした高級車系のエンジンフードは大きく、そして重たい(特にスチール製の場合)。昨今は軽量化のためにアルミ製エンジンフードの採用が増えてきており、質量は軽くはなっているが、それでも重たいエンジンフードを開け閉めするのは、作業性が悪い。
一方、国産・輸入車問わず、コンパクトカーのほとんどは、ボンネットステーを採用している。その理由は、エンジンフードが前出の高級車系と比べて小さく、スチール製であっても比較的軽いことと、コスト削減。そして、最も大きな理由が、消耗による交換費用の削減だ。
■ボンネットダンパーはヘタるが、ボンネットステーはヘタらない
ボンネットダンパーのようにガスが封入されたダンパー(ガススプリングとも呼ぶ)は、放っておいても徐々にガスが抜けていくため、必ずヘタりが生じる。
しかも、ボンネットダンパーの場合、リアのハッチゲート用のダンパーと違い、エンジンルーム内にあるため、走行中のエンジンの熱によって、高温環境にある。エンジン停止後には自然冷却されるなど、過酷な状況にさらされているため、劣化が早い。
ダンパーがヘタるまでの期間は、クルマの使用状況やシリンダーの太さや長さ、メーカー(シール部材が異なる)などによって様々だが、10年、15年も経つと、エンジンフードが上まで上がり切らなくなる。
新品交換にはそれなりの費用(工賃込で1~2万円程度)がかかるが、ユーザーとしては、普段あまりメリットを享受できないボンネットダンパーなんかに、「余計な出費したくない」と考えるだろう。
その点、ボンネットステーだと、スチール製の棒自体が錆びたり、折れたりすることは稀だ(ボンネットステーを引っかけるプラスチックパーツが摩耗、劣化する場合はあるが)。そうしたことから、値段にシビアになるコンパクトカーでは、生涯メンテナンスフリーになるボンネットステーが使われるのだ。
ボンネットステーを使わないことで浮いた予算は、必ず、「別のアイテム」へ回している。「コスト削減=利益追求=悪い」と捉えないでほしい。浮いた予算は、必ずどこか魅力的なアイテムの採用に使われている。
クルマを造る側からいえば、できれば「魅力的な装備はてんこ盛りしたい」というのが本音であり、それらを予算とクルマの個性とを照らし合わせ、「優先度が低い」と思われるアイテムを泣く泣く削っていく、というのがホントのところだ。
「消耗後の交換費を極力発生させない」ため、そして、「少しでも価値のあるアイテムへ予算を回す」ため、設計者は必ずこのふたつをよく考えている。コスト削減は必ず、「ユーザーへの価値還元」していることは、覚えておいてほしい。
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