連日真夏日が続き、すっかり夏真っ盛りだ。お盆も近づいてきたが、このシーズンで話題に上がるのは、やはり怪談やホラーだ。
そこで今回はスティーヴン・キング原作のホラー映画『クリスティーン』をご紹介しよう。
タイトルの『クリスティーン』は、1台の車につけられたニックネーム。変形するプリムス・フューリーをぜひ見てほしい!
文/渡辺麻紀、写真/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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■リメイクが噂される80年代の異色ホラー
ホラー小説の帝王ことスティーヴン・キングと、ホラー映画のマスターことジョン・カーペンター。それぞれ文字と映像を駆使し、恐怖を描くことに特化したふたりがタグを組んだホラー映画が『クリスティーン』(83)だ。
邪悪な意志をもった車がホラーキャラクターとして主演を張る、異色作である。
今回、本作を取り上げたのはリメイクされるというニュースが流れたから。
大ヒットしたTVシリーズ『ハンニバル』(13~15)等の脚本&製作のブライアン・フラーが初のメガホンを取り、お馴染みの『透明人間』(19)を見事に現代風に甦らせ、近年のホラー映画界を牽引するジェイソン・ブラムがプロデュースに名を連ねるというから、ホラーファンは否が応にも期待が膨らんでしまうのだ。
とはいえ、やはりその前に、オリジナルを押えておくのが正しい楽しみ方。いまでも色褪せないその魅力をご紹介したいと思う。
■邪悪な心を持った自動車“クリスティーン”
タイトルの“クリスティーン”は、いじめられっ子の高校生アーニーが見つけた車、58年製の真っ赤なプリムス・フューリーに付けられた名前。彼は野ざらしにされボロボロ状態だったこの車になぜか惹きつけられ、なけなしの金250ドル(現在では10万円くらい)を支払って手に入れ、手塩にかけて美しく甦らせる。
原作は文庫本で上下巻にも及ぶ長尺のため、忠実に映画化していたら到底2時間では収まらない。
そこでカーペンターは大胆な変更を試みた。原作ではクリスティーンに以前の持ち主の邪悪な魂が宿り、アーニーに取り憑いてしまうという展開なのだが、映画版は工場で組み立てられたときから邪悪な魂を宿していたという設定に変えられている。
それにともない、以前の持ち主にまつわる逸話部分はバッサリと排除され、アーニーと親友が繰り広げる青春ドラマも最小限にまとめられ、夜な夜な勝手に車庫を抜け出し、自分を傷つけたヤツラを次々と血祭りにあげて行くクリスティーンの恐怖のみが描かれている。
暗闇に浮かびあがり、禍々しい光を反射させる赤いプリマスを主人公にして、“彼女”を最恐のホラーキャラクターに仕立て挙げたのだ。
また原作では、ロック好きのキングらしくオールデイズの音楽があふれている。各章のタイトルに50年代のヒット曲の一節が用いられ、クリスティーンのラジオからは常にチャック・ベリーやビーチ・ボーイズ等の懐かしいロックが流れているという設定。
映画版でも同じようにカーラジオから往年のヒットソングが流れているが、その選曲がキングと微妙に違うところがカーペンターらしく面白い。
赤いプリムスとこの音楽のおかげで本作は、80年代が舞台にもかかわらず、50年代の空気感が漂っている。クリスティーンの尖ったテールフィンにギラギラのクロームメッキは、まさに50年代そのもの。車が単に乗り物ではなかった時代、車が青春の象徴だった時代を見事に表現している。
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