■キング&カーペンターの手によって『有名キャラ』となったプリムス・フューリー
さて、そこでギラギラのプリムスである。本作の製作費はおよそ1000万ドル(現在ではおよそ4000万ドル=約44億円)だったが、俳優の出演料は極力抑えられ、主人公のアーニーを演じたキース・ゴードン以下、高校生たちは当時は無名だった若手俳優で固められた。
なぜならカーペンターは、ほとんどの製作費をクリスティーンのために使いたかったのだ。
撮影のため、アメリカ中から集められたプリムス・フューリーは23台。当時の技術を駆使してプリムスに息を吹き込み、あたかも生きているかのようにみせている。
潰れていた車体がボコボコと音を立てながら復元されたり、フロントのバンパー部分が、まるで口のように開かれて人間を咥えこんだり等のSFX(特殊撮影)を担当したのはロイ・アーボガストというその道の達人。
スティーブン・スピルバーグの『JAWSジョーズ』(75)でも巨大サメの顎を作り、カーペンターとは『ニューヨーク1997』(81)『遊星からの物体X』(82)等で組んでいる大ベテランだ。このSFXはいま観てもまったく古さを感じない優れものである。
23台用意されたプリムスのほとんどは撮影中に壊れてしまい、無事に生き残ったのは2台だけ。その一台は04年にオークションにかけられ、16万7000ドル(およそ1840万円)で落札されたという。
ちなみに、キングの原作本の表紙には「スティーブン・キングのクリスティーン」とあり、映画版のタイトル(原題)は「ジョン・カーペンターのクリスティーン」。ちゃんとその内容の違いを表現しているが、クリスティーンが醸し出す存在感だけはどちらも強烈だ。
キングがプリムスを選んだ理由については、当時、自身が赤いキャデラックに乗っていたからという説もあるが、本人は「忘れられた車だったから。すでに伝説になっている50年代のサンダーバードみたいな車は使いたくなかった」と言っている。
とはいえ、赤いプリムスはこの小説と映画で一気に人気者になった。とりわけ映画ファンには忘れられない車のひとつになったことは間違いない。
●解説●
野ざらしになっていた58年型赤いプリムス・フューリーこと“クリスティーン”を手に入れたいじめられっ子の高校生アーニー。
“彼女”を時間と手間をかけ美しく甦らせると同時に、その性格も大きく変化して行く。奥手だったにも関わらず、美女転校生と付き合い始めたのだ。アーニーの親友デニスは、そんな彼に大きな不安を抱き始める。
カーペンターは当初、脚本家のビル・フィリップスとともに、同じくキング原作の超能力ホラー『ファイヤースターター』を手掛ける予定だったが、諸般の事情で降板。
ふたりはそのまま、こちらの企画に移行したという経緯がある。『ファイヤースターター』は結局、マーク・L・レスターによって映画化され、日本では『炎の少女チャーリー』(84)というタイトルで公開された。
一方、原作はキングの盟友である映画監督のジョージ・A・ロメロとその夫人クリスティーン・フォレストに捧げられている。この名前から判るように、タイトルも奥さんのファーストネームに由来しているというのがファンの認識になっている。
また、キングの場合、舞台のほとんどはメイン州なのだが、本作はロメロの地元であるペンシルバニア州ピッツバーグの郊外となっていて、ロメロの代表作『ゾンビ』の舞台になったショッピングセンターまで登場する。原作も大変面白いのでおススメだ。
* * *
『クリスティーン』
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,280円(税別)/4K ULTRA HD 4,743円(税別)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
コメント
コメントの使い方