新型アクアがアクセルペダルだけで加減速が行えるワンペダル車(快感ペダル)を設定しました。すでに日産リーフやe-POWER搭載車をはじめ、ホンダe、BMW i シリーズ、メルセデス・ベンツEQC、プジョーe208などがワンペダルを採用しています。
そこで、改めてワンペダルの走行感覚と魅力を紹介するとともに、利点や注意点をモータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説!
文/渡辺陽一郎
写真/トヨタ、日産、ホンダ
■ワンペダルのどこがいいのか? 危なくはないのか?
電気自動車やハイブリッドなど、モーター駆動を使ったクルマでは「ワンペダルドライブ」を行える走行モードを設定することがある。このモードを選ぶと、アクセルペダルを戻すと同時に、強い減速力が生じる。従来のエンジン車でいえば、MT車の2速や3速で走っているような感覚だ。
ワンペダルドライブが設定された背景には、モーター駆動ならではの制御がある。モーター駆動では、アクセルペダルを戻した時に、駆動用モーターが発電して、電気を駆動用電池に蓄えることが可能だ。ワンペダルドライブは、ハイブリッドなどの種類によってはその効率を高めるから、重要な機能とされている。
今の一般的なハイブリッドでは、ATレバーをDレンジに入れてノーマルモードの状態で走っても、ブレーキペダルを踏むと自動的に回生力が強まる。ドライバーは従来のエンジン車と同じようにブレーキを作動させているつもりでも、実際にはディスク/ドラムブレーキは作動せず、回生による充電量を増やすことで速度を下げていることもある。
ところが日産のe-POWERは、機能をシンプルにしてコストを抑えるため、ブレーキとの協調回生制御を省いた。他社のハイブリッドと違って、ブレーキペダルを踏んでも回生による充電効率は向上せず、ディスク/ドラムブレーキが作動して、減速エネルギーを熱に変換して大気に放出してしまう。
e-POWERで回生力を高めるには、エコ、あるいはSモードを選び、ワンペダルドライブを行う必要があるのだ。多くのユーザーがワンペダルドライブをせずにノーマルモードで走ったら、実用燃費が悪化して「e-POWERは燃費が悪い」と判断されてしまう。
そこでe-POWERでは、回生力を増やすエコ/Sモードを強くアピールして、多くのユーザーに使ってもらう必要が生じた。そのための訴求方法がワンペダルドライブだ。CMでは「誰もがひと踏みで惚れる気持ち良さ」などと表現され、エコやSモードを使うワンペダルドライブの定着を図った。
日産の訴求からは、ワンペダルドライブは運転をしやすく、楽しくするための機能と受け取られたが、実際は違う。エコ/Sモードの使用を促進させるための手段だった。
かつてセレナe-POWERのCMには「電気自動車の新しいカタチを充電いらずで。さらに自動運転も」という凄いナレーションが入っていた。ハイブリッドのe-POWERは「充電の不要な電気自動車の新しいカタチ」であり、運転支援機能のプロパイロットは「自動運転」だ。「ワンペダルドライブ」の訴求も、上記の過剰な宣伝と根底では繋がっている。
この背景にある根本的な理由は、日産が日本の自動車メーカーなのに、国内市場を軽視したことだ。商品開発から宣伝まで、さまざまな点において日本では予算が足りない。少ないコストでハイブリッドを開発して、なおかつ優れた宣伝効果を得なければならない。
そこでe-POWERは、リーフが搭載する電気自動車の機能を基本に、ハイブリッドを開発した。リーフの駆動用リチウムイオン電池と充電システムを、エンジン/発電機/燃料タンクに置き換えて、モーターに電気を供給する。
ちなみにホンダのe:HEVも基本的にはエンジンを発電のために使って駆動はモーターが担当するが、高速域の巡航では、エンジンがホイールを直接駆動することもある。
そのほうが効率が優れているためだ。この点についてe-POWERの開発者は、「e-POWERではコスト低減のために直接駆動の機能は装着していない」という。先に述べたブレーキ操作の協調制御を採用しないのと同じ理由だ。
以上のように「ワンペダルドライブ」は苦肉の策だったが、CM効果は高く、新しい運転スタイルとして予想以上に定着した。「e-POWERはワンペダルドライブができるからイイよね」という感じになった。
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