■新型アクアのワンペダル「快感ペダル」
新型アクアは、トヨタでは初めて「快感ペダル」を採用した。アクアにはノーマル/エコドライブ/パワー/パワー+という4つの走行モードがあり、POWER+モードを選ぶと快感ペダルが作動する。
快感ペダルはe-POWERのワンペダルドライブに近いもので、アクセルペダルを戻した時、ノーマルモードに比べると、最大で約2倍の減速度が発生する。そのためにアクセルペダルによる速度調節の幅が広がった。
ただしアクアはe-POWERと違って、ブレーキペダルとの協調制御を行う。そのために快感ペダルを作動させないノーマルモードを選び、ブレーキペダルを使って減速しても、協調制御によって同様の回生充電効果を得られる。
従って快感ペダルは、e-POWERのエコ/Sモードとは異なり燃費を節約するための必須条件ではない。それでも敢えてアクアで初採用したのは、e-POWERの宣伝効果により、ワンペダルドライブへの対応を迫られたからだ。
過去を振り返ると。e-POWER以外の大半のハイブリッドは、ブレーキとの協調制御を行っていたからワンペダルドライブを訴求する必要はなかった。その流れを苦肉の策で始めたe-POWERの宣伝が変えた。
■ワンペダルの利点と注意点は?
ノートe-POWERは、あれだけワンペダルドライブを宣伝したのに、すべてのユーザーがエコ/Sモードで走るわけではない。約20%のユーザーは、燃費を悪化させるノーマルモードを使っている。開発者は「お客様によっては、走りがギクシャクするために、エコやSモードを使わない」という。
これこそがワンペダルドライブの最も大きな欠点だ。ブレーキペダルに踏み換える必要はないが、アクセルペダルだけで速度を幅広く調節するため、アクセルペダルを戻す操作をデリケートに行わねばならない。
ドライバーによっては、踏む操作は得意でも、戻しが苦手な場合もある。滑らかな運転の極意は、ステアリングホイールもペダルも、戻す操作をていねいに行うことだが苦手な人もいる。このようなユーザーは、ワンペダルドライブでは滑らかに走りにくいため、ノーマルモードを使うわけだ。
この問題に対処するため、現行ノート(ノートオーラを含む)のe-POWERは、先代型に比べてエコ/Sモードを含めた減速制御を見直した。先代型ではアクセルペダルの戻し方によっては減速力が唐突に強まり、乗員に不快感を与えることがあったからだ。現行型では速度の下がり方を穏やかに改めている。
また先代型では、信号の手前で停車する時など、路面に引かれた停止線のかなり手前で止まることもあった。先代型のe-POWERは減速の度合いが分かりにくく、しかも従来のATに見られるようなクリーピング(アクセルペダルを完全に戻しても徐行する現象)も生じなかったからだ。
そこで現行型では、速度の下がり方が分かりやすく改善され、なおかつクリーピングも生じるように改めたから、停車位置の調節も容易になった。先代ノートe-POWERに比べると、現行型では運転中の違和感が大幅に薄れている。
それでも完全に解消されたわけではない。先に述べたアクセルペダルを戻す操作が苦手なドライバーは、やはりノーマルモードでないと滑らかに運転しにくい。街中の走りで、ワンペダルドライブによるデリケートなアクセルペダル操作を長時間にわたって続けると、右足首が疲れるドライバーもいる。
そしてさらに注意を要するのは、自分のクルマで毎日ワンペダルドライブをしているドライバーが、稀に通常のAT車に乗り替えた時だ。通常のAT車では、アクセルペダルを戻しても強い減速力は生じないから、先行車に急接近して、慌ててブレーキペダルに踏み換えることも想定される。このような瞬間に、先行車が強くブレーキを作動させたりすると、追突する危険が高まる。
いろいろなメカニズムや運転感覚を選べることは、ユーザーに楽しさを与えて、クルマの多様な進化も促進させる。優れた効果をもたらすが、そのバリエーションが基本的な運転操作までおよぶと危険が生じてしまう。
身近な例では、輸入車の方向指示機とワイパースイッチの位置関係だ。日本車では方向指示機は右側、ワイパーは左側だが、輸入車は逆になる。右左折時に右手でワイパーを動かしてしまい、「あっ、間違えた」と左手で方向指示機を操作し直す。方向指示機の作動タイミングが遅れ、ドライバーが慌てた時に飛び出しなどが重なると、通常に比べて対処の仕方が悪化する。
ワンペダルドライブは否定すべきものではないが、ほかのクルマに乗り替えた時は、アクセルペダルを戻しただけでは十分な減速力が得られないから十分に注意して欲しい。
またワンペダルドライブを試して使いにくいと感じたら、無理は禁物だ。思い通りに操作できず、クルマの動きがギクシャクすれば、周囲の車両が自車の動きを予測しにくくなる。そこも含めて危険が増すから、ノーマルモードで走るようにしたい。
こういった点を踏まえると、e-POWERには、ほかの車種と同じくブレーキとの協調回生制御が必要だ。開発者は「協調回生を行うとコストと価格が高まる。その金額をほかの機能に使ったほうが、お客様の利益になる」と説明するが、安全に影響を与えるとなれば話は別だ。
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