このところ、フォルクスワーゲンやメルセデスベンツなど輸入車メーカー/ブランドが、日本で販売する新車の価格を値上げしている。
いっぽうで日本車が値上げしたという話はほとんど聞かない。従来から輸入車は小刻みに価格を改訂し、日本車はモデルチェンジなどのタイミング以外では滅多に価格を変えない、というのがこれまでの流れ。
なぜ日本車はなかなか値上げをしないのだろうか?
文/渡辺陽一郎、写真/編集部、フォルクスワーゲン
■VWやベンツなどが相次いで新車を値上げ
フォルクスワーゲン(VW)が、2021年10月1日から、一部の車種について車両価格やオプション価格を値上げした。値上げ幅の平均は1.5%としている。
値上げされた車種は、ゴルフ、ゴルフヴァリアント、パサート、パサートヴァリアント、ティグアンなど多岐にわたる。ゴルフRラインの価格は、従来は375万5000円だったが、今は381万1000円だ。5万6000円値上げされた。
値上げの理由は「原材料の価格上昇」と説明されている。なおVWは、2021年4月にも、ポロやTロックを値上げした。
VWに限らず、輸入車は値上げをすることが多い。2021年9月には、メルセデスベンツ EクラスやSクラスが、やはり原材料費の高騰などを理由に値上げしている。10月に入ると、PSAジャパンのDS3クロスバックが価格を10万円高めた。
DS3クロスバックでは、値上げの理由に、輸送費の高騰もあげている。この背景には、コロナ禍が終息に向かって原油の需要が増え始めたのに、産油国が大幅な増産を見送った事情もある。今後は二酸化炭素の排出抑制によってガソリンなどのニーズが下がることも予想され、価格を高値に保っておきたいからだ。
そうなると需給バランスによって原油の価格が高まり、輸送費も上昇する。原材料費が高まった影響と併せて、輸入車が値上げされた。
ところが日本車は、輸入車と違って、値上げを頻繁にはおこなわない。この違いは何か。
■輸入車が「頻繁に価格を変える」理由とは?
まず輸入車には、もともと価格を頻繁に改訂する事情があった。日本車と異なり、為替レートの変動が価格に大きな影響を与えるからだ。最近の値上げ要因は、前述の通り原材料費や輸送コストの上昇だが、コロナ禍以前は為替レートの影響も大きかった。
そのためにかつては、円高差益還元として価格を下げたり、購入サポートとして一定額の値引きを必ずおこなうこともあった。購入サポートに加えて通常の値引きも可能だったから、実質的な値下げをおこなっていた。
また、輸入車には、イヤーモデル制を採用する車種も多い。基本的に価格を毎年見直すから、為替レートの変動も含めて、価格が頻繁に変更される。
つまり輸入車では、価格の変更が特別なことではない。特に40~50年前の為替レートは、1971年までは1ドル=360円だったが、変動相場制に変わり、1973年には300円前後になった。1978年には約200円まで円高が進んでいる。
この時期には、わずか7年ほどの間に360円から200円までの急激な円高になり、乗用車の輸入台数も急増した。日本自動車輸入組合のデータによると、1970年の輸入台数は1万6747台だったが、1979年には6万161台に達した。9年間で3.6倍に増えている。
同時期は国内の販売台数も増加したが、1970年は410万台で、1980年は502万台だ。市場全体の拡大もあったが、輸入車の3.6倍には達しない。輸入車は円高の進行によって割安感が強まり、身近な存在になった。
輸入車はこのような経緯を辿ったから、今でも価格を変えることに対して本質的に寛容だ。輸入して販売する以上は為替レートを反映させるのは当然で、為替変動が頻繁に生じれば、それに合わせて輸入車の価格も変えねばならない。
この流れが原材料費の価格上昇などに伴う本国の出荷価格と、日本の販売価格の値上げにも結び付いている。
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