現在のミニバン人気を作り上げたホンダ ステップワゴンが、2021年11月で現行型の生産を終えるようだ。
次期型へのスムーズなバトンタッチとはならず、数か月間の空白が生まれる。ステップワゴンの近年の成績は奮わないが、個性が強く魅力の多いクルマなだけに、新型では、もう一度スポットライトを浴びる存在になってほしい。
2022年はライバルのトヨタ ノア・ヴォクシーのモデルチェンジも控え、ステップワゴンも含めたトールミニバンが、もう一度脚光を浴びる年になるだろう。そこで本稿では、自動車販売現場に従事していた筆者が、ステップワゴンの魅力と、現在の衰退に至った理由を考えていく。
文/佐々木 亘、写真/HONDA、TOYOTA
■現代ミニバンの基礎を作ったステップワゴン
1990年代、ミニバンの主流はキャブオーバーのワンボックスだった。FR(後輪駆動)レイアウトで床面が高く、商用ワンボックスのベースに、上等なシートや内装をあしらったクルマが多い。
この形式に異を唱えたのがステップワゴンだ。現在では当たり前となっている、FF(前輪駆動)レイアウトにボンネットタイプのボディを組み合わせたミニバンの形を提案し、約5年間で47万台を売る大ヒットモデルを生み出した。
低床で広々とした室内に多彩なシートアレンジを用いて、ミニバンの姿を「モノを運ぶ商用ワンボックス」から「人が快適に移動するためのクルマ」に変えた存在だ。
ステップワゴンのヒットを見て、1999年には日産 セレナがフルモデルチェンジし、2001年にはトヨタ ノアが誕生する。どちらも先代で採用されていたFRレイアウトを廃止し、FFレイアウトに変わった。大ヒットしたステップワゴンを意識してのモデルチェンジである。
現在のミニバンの祖先とも言えるステップワゴン。その魅力は数えきれないほどあり、日本の名車のひとつと言えるだろう。
■「新しさ」がステップワゴンの魅力
ステップワゴンは、常に「新しさ」を際立たせて人気を博したクルマだと筆者は思う。
2代目では、初代よりも45mmステップを低くし、低床で広い室内空間はライバルを圧倒した。3代目では、ライバルが1850mm前後の全高を維持するなか、あえて低床低重心を打ち出し、全高を1770mm(FFモデル)に設定する。
この変更は、あまり好意的には受け入れられなかったが、トールミニバンにおける新しい発想といえるだろう。
ボディサイズを元に戻した4代目以降は、室内装備に新しさをプラスしていく。クラスで初めて、3列目シートに床下格納方式を採用し、使い勝手を大きく向上させた。そして現行型の5代目には「わくわくゲート」と言われる、横開きのサブドアを組み合わせたテールゲートを採用し、大きな話題となっている。
ステップワゴンがモデルチェンジをするたびに、「次は何をしてくるんだ?」と各メーカーの販売現場は焦りの色を滲ませる。筆者もトヨタの販売現場からステップワゴンの動きを見ていたが、思いもよらないスペックや装備に、いつも驚かされていた。
新しい仕掛けがすべて成功したとは言い切れないが、新しいことに挑戦し続けるホンダの姿勢を色濃く映し出しているのがステップワゴンだ。その独創性は、ユーザーの視線を釘付けにし、話題を一気に攫っていくものだったと記憶している。
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