ポルシェ初のEVとして鳴り物入りでデビューしたタイカンの販売が絶好調だ。ポルシェの旗艦モデルとなる911を上回るほどの販売台数をグローバルで記録したのだというから驚かされる。そこで、そのタイカンの持つ魅力はいったいどこにあるのかについて、石川真禧輝氏が分析する。
文/石川真禧輝、写真/ベストカー編集部、ポルシェ
■今年1月~9月までの販売でタイカンは911を凌駕!?
ドイツのポルシェAG本社が2021年の1月~9月期での世界新車販売台数を発表した。総販売台数は21万7190台で、これは前年同期比で13%増。2年ぶりに前年実績を上回った。
モデル別に見てみると、もっとも売れたのはハイエンドラグジュアリーSUVの「カイエン」で、6万2451台、続いて「カイエン」の弟分にあたる「マカン」が6万1944台と、わずか500台の差で2位に入った。この1、2位はここ数年同じ。年によって「マカン」が1位ということもある(2019年)。
それにしてもSUV2台で12万5000台近くを販売している。ポルシェ全生産台数の60%を「カイエン」と「マカン」が占めていることになるのだ。ポルシェの現在の商品ラインナップは「カイエン」「マカン」以外にミドシップスポーツクーペの「718ケイマン」、同じくミドシップスポーツオープンの「718ボクスター」、ラグジュアリースポーツセダンの「パナメーラ」。ポルシェの基幹である伝説のスポーツカー「911」。それに2019年から加わったピュアEVの「タイカン」がある。残り40%をこの5車が担っている。
■911の販売台数を上回るピュアEVの『タイカン』とは
なかでも注目なのはピュアEVの「タイカン」だ。2021年の前半だけでも約2万台が納車され、年のはじめからの販売台数は2020年1年間の販売台数をわずかに下回る台数だった。それが、9カ月目には2万8640台にまで伸びているのだ。
そして、この台数はなんと「911」を上回ってしまったのだ。2021年1~9月期の「911」の販売台数は2万7922台なので「タイカン」に約700台ほど差をつけられてしまったのだ。ポルシェ一家の誇りである「911」を、生まれてから3年目の新参者が、抜くとはどうしたことなのだろう。「タイカン」とはどのようなクルマなのか、検証してみた。
「タイカン」は2018年にその名称が公開されたポルシェ初のフル電動スポーツサルーン。日本では2019年9月に発表された。
その性能はトップエンドモデルの「ターボS」で761ps。「ターボ」は680psを発生する。EVの性能を表記する時にポイントになるバッテリーの総電力容量は93kwh。ちなみに日産リーフはデビュー当初は40kwh、チューニングモデルが発売されたが60kwh、216psだ。いかに「タイカン」が凄いかがすぐにわかる。
■タイカンのスペックとバリエーション
「タイカンターボS」の0→100km/h加速は2.8秒。最高速は260km/h。一充電での航続走行距離は「ターボS」は412km、「ターボ」は450kmと発表されている。モーターは前後輪に1基ずつ備えられた4輪駆動方式を採用している。
2021年1月には新たに79.2kwhのバッテリーを搭載し、後輪を駆動する2WDモデルも登場させるなど、バリエーションの拡大を図っている。こちらは326psと380psが公称出力。バッテリー容量は79.2kwhが標準装備で搭載されているが、オプションで93.4kwhバッテリーが用意されている。
ボディは4ドアセダン。ホイールベース2990mm、全長4963mm、全幅1966mmというビッグサイズの4ドアセダンだ。
2021年3月、日本でも新しいEVが加わった。これが「クロスツーリスモ」だ。リアゲートを備えたSUV的なイメージのスポーツカーは、さらに使い勝手が向上している。特にリアのラゲッジスペースは後席のヘッドスペースも充分。室内高も47mm高くなっている。現時点でのバリエーションは4ドアサルーンが3グレード、クロスツーリスモも3グレード用意されている。
■ポルシェ911のスペック
一方、新参EVに販売台数で後塵を浴びせられた「911」だが、ボディ形状は2ドアでクーペ、カブリオレ、タルガの3タイプのルーフ形状がある。これに、パワーユニットや駆動方式(リア駆動と4輪駆動)などが組み合わせられて、シリーズを形成している。モデル数は20以上になる。ボディサイズはホイールベース2450mm、全長4519mm、全幅1925mmが基本だ。
いずれのモデルも乗車定員は基本2名。リアシートを備えたモデルもあるが、あくまでもプラス2的だ。
ちなみに、911のガソリンタンク容量は64~67L。試乗した経験では、燃費に関しては6.0~9.0km/Lが平均値。となると満タンでの航続距離は380~600kmになる。エンジンのタイプによっては「タイカン」よりも航続距離が短いことも考えられるのだ。
■富裕層がカーボンニュートラル社会に忖度した結果のタイカン
では、なぜ「タイカン」が短期間のうちに「911」よりも売れるようになったのか。ポルシェの販売実績を見るまでもなく、ユーザーの目はSUVに向いている。室内は完全に大人4名がラクに過ごせる空間があり、荷物も積める。しかもターボモデルなどはスポーツカー並みの加速、最高速が楽しめる。時代の中心はSUVだ。
しかし、世の中の流れは、脱炭素化、地球環境が問われる時代になってきた。そこに次々に登場してきたのがEVやプラグインハイブリッド車。特にピュアEVは、フォーミュラEなどでの実戦経験から、各社の技術が格段に向上している。なかでも航続距離に関しては、すでに書いたようにガソリン車を上回るような性能のクルマも現れている。
こうした世の中の動きに敏感なのが大企業の経営者や医者、弁護士たち。特に欧州や北米では周囲の目を気にする。
とりあえずEVを購入し、脱炭素、地球環境に気を遣ってますよ、という姿勢をアピールするために購入している、という。「富裕層のガレージを開けると1台、タイカンが入っている。以前はテスラだったが、最近ではタイカンがその座を奪っている」(ドイツ在住のジャーナリスト)。
「まだまだ充電設備も全土まで行き渡っていないので、長距離は乗れない」(ドイツ在住タイカンオーナー)。
いち早く高級SUV市場に参入し、大ヒットさせた「カイエン」に続き、「タイカン」も富裕層の動きをいち早くキャッチした商品戦略の上手さ。「タイカン」が「911」よりも売れているのはこういう事情が隠されていたのだ。
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