あと10年で新車のすべてが電動化されると3ペダルMTが消滅するのか?

あと10年で新車のすべてが電動化されると3ペダルMTが消滅するのか?

 EUの欧州委員会が2035年までにHVを含むエンジン車の新車販売を禁止する方針を固めた。そのほかの各都市や自動車メーカーも2030年~2040年にかけて、電動化が加速している。

 ここでふと、クルマ好きにとって心配なことが1つある。HVを含め、EV、FCVなどの電動化車両だと、3ペダルのMT車が絶滅してしまうのではないかということだ。

 特に欧州ではMT車が好まれており、不満は出ないのだろうか? マニュアル操作ができるといっても、2ペダルのDCTや10速ATなどの多段化ATでは、3ペダルのMT操作による運転する楽しさは味わえない。

 はたして、このまま3ペダルのMT車は、電動化時代に向かって消滅していくのだろうか、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。

文/高根英幸
写真/日産、ホンダ、マツダ、ポルシェ、ベストカーweb編集部

【画像ギャラリー】まだ希望はある! クルマが電動化しても多段MTが存続する可能性を写真でチェック!!


■実は電動化とMTの相性は悪くない

 クルマの電動化が急がれている。2021年の欧州燃費規制の厳しさや、迫り来る日本の2030年規制、そして欧州では2035年にはエンジン車の販売を禁止する法案まで審議されているほどだ。

 その一方で、欧州ではMT車の人気は依然高い。それは、自分でクルマを操っているという満足感、安心感があることと、日本に比べクルマの生涯走行距離が長く、メンテナンスコストなどの点でもMTが選ばれているようだ。

 しかし件の燃費規制は電動化を半ば強制的に進めていくことになるから、MT車が絶滅するという予測も起こっている。電動化とMTは共存していけるのか、運転するならMT派の筆者がMTの将来性を考えてみた。

 かつて、ホンダがパラレルハイブリッドでP1タイプ(エンジンのクランク軸後端にモーターをマウント)を採用していた初代インサイト、フィットHV、CR-ZにはMTの設定もあった。

1999年に発売された『初代インサイト』。ハイブリッド、空力、軽量化と、ホンダが徹底的に燃費にこだわったスペシャルマシン(5速MT)
2010年に登場した『フィットハイブリッドRS』。1.5L iVTEC+IMAのHVでも6速MTが用意されていた
2010年に発売された『CR-Z』。第31回カーオブザイヤー受賞と業界からの評価は高かったが販売が振るわず一代で生産終了となった(6速MT)

 特にCR-ZはCR-Xの再来としてコンパクトなFFハンドリングマシンという性格が与えられ、モーターのアシストによりターボのようなパワフルな加速感が味わえたことから、ハイブリッドスポーツという新感覚のジャンルさえ生み出したのだ。

 しかしハイブリッドという割りには燃費が伸びず、ホンダもIMAと呼ばれたP1レイアウトの薄型モーターから2モーターのe:HEVへと路線変更した結果、MTとの両立は消滅した。

 ではハイブリッド車のMTはもう実現しないのか、と問われればそうとは言い切れないだけの可能性は存在する。というのもハイブリッドとMTを組み合わせるには、様々な方法が考えられるからだ。

 スズキのSエネチャージなどのP0タイプ(ベルト駆動の発電機にモーター機能を追加してアシストするマイルドハイブリッド)は、現時点でもラインナップされているだけに当然、今後もMTと組み合わせることは可能だ。

 マツダ3にはSPCCI(火花点火制御圧着火)と、P0タイプのマイルドハイブリッドシステムM-HYBRIDを組みわせていたe-SKYACTIV-Xが設定されている。これに6速MTを組み合せることで、力強いトルク、リニアで正確なレスポンス、高回転までスムーズに伸びていく爽快な加速感が味わえる特徴を持っている。

e-SKYACTIV-X搭載のMAZDA3。SPCCI(火花点火制御圧縮着火方式)の制御を最適化し、最高出力を従来型の180ps、22.8kgmから190ps、24.4kgmにアップさせた
世界で初めて実用化したSPCCI(火花点火制御圧縮着火方式)を搭載したe-SKYACTIV-Xと190ps、24.4kgmの2L、直4に 6.5ps、6.2kgmのMハイブリッドを搭載。これに6速MTが組み合わせられる

 前述のP1タイプはEVモードでの走行や回生充電の効率が悪い(エンジンと切り離せない)ため、今後登場する可能性は高くない。

 しかし変速機の前にモーターを組み込むP2タイプ、変速機の後端に組み込むP3タイプや、前輪をエンジン、後輪をモーターが駆動するパラレルハイブリッドであれば、MTと組み合せることは可能だ。

 技術的には可能でも、環境対策を推進するための電動化であるから、燃費性能が高い変速機のほうが選ばれる可能性は高い。この点がMTの存続を危うくしている大きな要素だ。

■MTの構造上、6速以上の多段化は難しい

 MTは平行軸歯車だけのシンプルな構造から、駆動損失が少なく耐久性が高い(クラッチは消耗品で、乗り手で寿命が左右するが)のがメリットだが、ドライバーが変速操作を確実に行なうことを考えると、Hパターンのシフトでは6速までに限定されてしまう。

 ポルシェはDCTとの共用を狙って7速MTを開発(アストンマーチンとコルベットにも採用例あり)したが、操作性を考えれば今後も6速MTが主流になるのは変わらないだろう。

欧州で2020年4月に911カレラSとカレラ4Sに設定された7速MT

 しかしエンジンのトルクやモーターのアシストには限度がある以上、変速機の各段の減速比の差(ステップ比と言う)は限界がある。つまり8速や10速を誇るATには、変速比幅では敵わない、ということだ。

 冒頭の欧州ユーザーが好むMTのメリットにおいて、燃費性能に優れているというのは、最新のATと比べると当てはまらないのである。

 巡航時にはエンジン回転をいかに下げるか、ということがエンジンの燃費性能を引き出す大きな要素となる。であれば今や多段ATのほうが燃費性能に優れていることは明らかだ。

 シフターをシーケンシャル化して、シフトレバーを前後に動かすだけでシフトアップ/ダウンできる機構にすれば7速以上に多段化したMTも可能だが、既存のMTのシフトワークに慣れ親しんだドライバーにとっては、理想のシフト操作とはいえなくなるだろう。

 そもそもシーケンシャルシフトはドグミッション(ノンシンクロのMTで、走行中のシフト操作はクラッチ操作を省いて変速時間を短縮)のためにあるようなものだった。

 パドルシフト同様、クラッチ操作を伴うシフトワークとしては何だか異端なイメージがある。これも慣れれば問題ないだろうが、現在MTを支持しているクルマ好きは、フロアシフトのHパターンを操って運転したいのだ。

 副変速機を備えて、ドライバーのシフト操作を検知して副変速機を自動で制御すれば、Hパターンのまま8速や10速、12速といったMTを作り出すこともできる。

 しかしそこまでしてMTを存続させようとするメーカーや支持するフリークが現われるだろうか。

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