日産のフラッグシップミニバンであり、かつては月販1万台を超える売り上げを誇った日産「エルグランド」。しかし、今やかつての人気ぶりは見る影もなく、とうとう月販205台(2021年10月)にまで落ち込んでしまった。
あまりの人気低迷ぶりに、生産終了もささやかれているエルグランド。かつての王者エルグランドはどこへ行くのか。
文:吉川賢一
写真:NISSAN
飛ぶようにうれた初代モデル
初代エルグランドがデビューしたのは1997年のこと。「大人数が快適に移動できる空間」というコンセプトがヒットし、初代モデルは飛ぶように売れた。乗員や荷物をたっぷりと荷室に積み込んでも、トラクションがしっかりと得られるよう、後輪駆動をベースとし、リアにはマルチリンクサスペンションをおごるなど贅沢なつくりとなっていた点は、当時の評論家やクルマ好きからは大好評だった。
ちなみに、ラージミニバン界の王者「アルファード」は、この初代エルグランドのヒットを見て2002年に登場したクルマであり、当初は「アルファードの方がエルグランドになりたかった」という背景がある。アルファードは前輪駆動をベースとし、リアサスは廉価なトーションビーム式という一般的なミニバンのつくりで登場、エルグランドの方が走行性能のポテンシャルは高かった。
2002年のフルモデルチェンジでは、FRと4WDの2種類の駆動方式は踏襲しながら、リアにはV35スカイラインや初代フーガにも採用した、高性能なマルチリンク式サスペンションを採用。リア入力時の乗心地とリアの安定性を高次元で両立し、「走り」へのこだわりをキープコンセプトして貫いた。ミニバン離れした俊敏な身のこなしで、大きなボディを、3.5リッターもしくは2.5リッターのV6エンジンでグイグイ引っ張っていく、非常に優秀なミニバンであった。
「走り」にこだわりすぎたのが悪夢の始まり
2世代に渡って「走りのミニバン」をウリにして成功したことで、エルグランドは3代目も「走り」に拘ったモデルで登場する。コストを低減するために駆動方式をFFベースへ切り替え、3.5リッターV6エンジンは継続し、2.5リッターはV6エンジンから直4エンジンへと置き換えられた。また、低重心化をするために、全高は2代目の1910mmから1815mmへと大きく下げた。
当時、2代目アルファードの全高は1915mm(3代目となる現行アルファードは1950mm)であるから、アルファードと比べると明らかに低く見えた。これが、エルグランドの悪夢の始まりだったと筆者は考えている。
大人数がゆったりと乗れて、頭上やひざ回りの空間が広く、収納スペースも広い、こうした点に加えて、「視界の高さからくる優越感」や「ボディのボリューム感」も重要なポイントだ。
その点、3代目エルグランドは、低床化をしたことで室内スペースは広く感じるのだが、「視界の高さ」を感じにくい。走りを好むユーザーからは、否定的な意見が出るだろうが、ハンドリングなんてものは、ドライバー以外の乗員にとってはどうでもよいこと。高速走行ではまっすぐふらつかず、乗り心地もふんわりと柔らかく走ってくれればいい。
結果として、エルグランドは3代目も、「走りが良いミニバン」として評価されたが、期待ほどにはヒットすることができず、その後はモデルチェンジもお預け状態となる。
2019年には、フェイスリフトを伴うマイナーチェンジをうける。マイチェン当時、テレビCMでは近藤真彦氏を用いて、峠道をハイペースで走るエルグランドの映像を流し、いかにも「走りのミニバン」をアピールした。
だが、そもそも需要が少ないところへきて、マイチェンの内容が買い替えをするほどには変わっていない。結果的にマーケットにはさほど響かず、進化するアルファード・ヴェルファイアに追従するどころか、冒頭で触れたような月販205台という無残な状況となってしまった。
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