日本の高級車の代名詞であるクラウンは、15代に渡る長い歴史を持つクルマだ。
現行型の15代目クラウンは、これまでクラウンが歩んできた道を少し外れ、イメージチェンジを図ったモデルである。走行性能を鍛え、ユーザーの若返りを目標にしたが、その効果は出たのだろうか。15代目クラウンが登場し、クラウンへの需要はどう変わったのか、ユーザーの声や動きを中心に考えていく。
文/佐々木 亘、写真/トヨタ
■日本のセダンが売れないことに気が付いたクラウン
2018年に登場した現行クラウン。GA-Lプラットフォームの採用を機に、クルマの「走る・曲がる・止まる」の基礎能力を高め、欧州車にも負けない走行性能を売りにした。
クラウンでは初めてシックスライトキャビンを採用し、シャシーからエクステリアデザインに至るまで「クラウン初」を採用した延長線上には、好調な販売を続ける欧州セダン勢の姿があるのだろう。
「日本ではセダンが売れない、販売の中心はSUVやミニバンだ」と、2000年代に入ってから20年近く言われ続けてきた。
確かにセダンの売れ行きは、SUVやミニバンに比べれば悪くなってきているが、街中では新車で購入したであろうセダンが、まだまだ多く走っている。その多くは、メルセデス・BMW・アウディに代表されるドイツメーカーのクルマだ。
正しく言えば「日本でセダンが売れない」のではなく、「日本のセダンが売れない」のである。輸入車ディーラーのショールームに出向き、積極的にセダンの試乗や購入相談をする姿は、世代を問わず多い。
クラウンも、今までの60代以上のオーナーではなく、輸入セダンを好む比較的若い購買層へ刺さるクルマへ変わりたかったようだが、こうしたメッセージは肝心のターゲット層に届いていないのではないだろうか。
■スポーツイメージが弱くなった?想定とは逆の反応
クラウンは時代の変遷とともに、クルマのコンセプトを少しずつ変えている。歴代クラウンの姿やスペックを見ると、その時代背景が良くわかるのだ。
変化をさせつつも、クラウンの根幹である「乗り心地」と「居住性」については、世代が変わるごとに少しずつグレードアップしている。キャラクターやコンセプトが変わりつつも、根幹部分の変化は少ないため、これまでクラウンを支えていた「いつかはクラウン」を知るユーザー層が離れることは少ない。
「いつかはクラウン」、このキャッチコピーが登場したのは1983年の7代目クラウン登場時だ。当時クルマの免許を持っていた世代は、若くとも50歳以上になっている。いつかはクラウンの中心を生きてきた世代は還暦を越え、その子の世代も既に30代半に差し掛かるだろう。
こうした世代がクラウンに抱くイメージは、高級であり手の届かない存在ということだ。この点では現行クラウンも同様のイメージを持っている。しかし、15代目クラウンでトヨタが強く押し出した「スポーティ」というイメージは、登場から3年近くが経過する現在も、未だに定着していない。
実際に販売店でクラウンユーザーに話を聞いてみると、15代目クラウンへスポーティイメージを持つ人は少なかった。歴代のクラウンアスリート乗り継いできたという方は、「アスリートが無くなったことで、クラウンのスポーツイメージは、さらに薄くなった」と語っている。
今、クラウンを新車で購入していくユーザー層は、相変わらず「いつかはクラウン世代」が多い。現行型が目指したユーザー層の若返りは思ったように進んでいないし、スポーツイメージの定着も薄い。
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