2021年の乗用車販売台数ナンバー1は、21万2927台で、トヨタ「ヤリス」だった。一方、軽自動車のナンバー1は、ホンダ「N-BOX」で、こちらは18万8940台だった。ただ、ヤリスには、「ヤリスクロス」や「GRヤリス」も含まれているため、一つのボディタイプで最も売れたクルマはN-BOX、ということになる。
このN-BOXは、軽自動車として7年連続で販売台数1位を獲得し続けている、圧倒的な人気車だ。強豪揃いのハイトワゴン市場において、なぜN-BOXがこれほどまでに独り勝ちしているのか。その実力と魅力を改めて振り返ってみよう。
文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:HONDA、DAIHATSU
軽ハイトワゴンはホンダの「得意分野」だった
軽スーパーハイトワゴンの「N-BOX」は、ホンダの「Nシリーズ」の中心的な役割を担うモデル。このNシリーズの原点は、1967年に発売されたホンダのベストセラー軽ハッチバックの「N360」だ。
N360は、「乗るところは十二分に、エンジンはコンパクトに」という考え方のもと、軽自動車ながら大人4人が楽に乗れる広さ、誰もが運転を楽しめる走り、手の届く価格という、当時としては異例ともいえるクルマづくりで大ヒットを記録したモデル。「N」とは「Norimono(のりもの)」のNであり、「人が乗るためのもの」という意味が込められている。クルマがまだ憧れだった時代に、クルマが人々の生活の一部になることを目指してつくられた。
軽スーパーハイトワゴンの魅力は、なんといってもパッケージングとデザインのバランスだ。限られたサイズの中でいかに効率よくメカを配置し、キャビンスペースを最大限確保するか。N360から「乗るところは十二分に、エンジンはコンパクトに」という思想で、50年以上も前からクルマづくりをしてきたホンダにとって、軽スーパーハイトワゴンは、まさに「得意分野」だった。
得意を活かしたクルマづくりで一躍人気モデルに
2011年に誕生した初代N-BOXは、軽スーパーハイトワゴンとしては後発で、N-BOX登場当時は、ライバルのダイハツ「タント」やスズキ「スペーシア」がすでに人気を集めていた。特にタントは、全高が1,700mmを超えるような背の高いスタイリングでありながら、商用車感を拭い去ったモダンなデザインとパッケージングの良さで、子育て世代を中心に大ヒットとなる。
スポーティな「タント カスタム」も人気に拍車をかけた大きな存在だった。当時軽スーパーハイトワゴンを持っていなかったホンダは、このタントに真っ向勝負を挑むべくN-BOXを投入した、というわけだ。
ホンダは、N-BOX含むNシリーズのためにプラットフォームを新開発。フィットでも実績のある「センタータンクレイアウト」を軽自動車として初めて採用し、同カテゴリーで最も低いフロアを持つことに成功。加えてエンジンも、エンジンルームを小さくするための工夫と、低燃費、高出力、街乗りでの扱いやすさを追求した、新開発のS07A型を搭載し、日常使うシーンでの爽快さと高いレベルの走りを目指した。
初代N-BOXの室内長は、当時最大級の218cm。後席には大柄な男性が足を組んでゆったりくつろげるミニバン並のシート間隔を設け、室内高さも、子供が立ったまま着替えられる140cmを確保し、跳ね上げられるリアシートによりA型ベビーカーもたたまずに積めた。もちろん、リアシートを使用した状態でも日常十分な広さの荷室も確保している。
外観から広さを感じさせつつも、親しみやすさと安定感を感じさせるデザインは、プレーンで飽きがこないし、男女問わずどの世代が乗ってもしっくり馴染む。「いい買い物をした」と思わせるバランスのいい上質感も絶妙。
こうして初代N-BOXは、単にいいとこ取りの二番煎じではなく、ホンダがこれまで培ってきた技術によってすばらしい商品力を持つモデルとして登場し、一躍人気モデルとなったのだ。
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