スバルのフラッグシップスポーツカーであり、日本が世界に誇るスポーツセダンWRXの最強ブランド「STI」シリーズの続報が、米国より届いた。
米国時間2022年3月11日(日本時間3月12日)、米国でのスバル車販売を統括する“Subaru of America(通称SOA)”は、「STATEMENT ON SUBARU STI(スバルSTIに関する声明)」と題した公式リリースをメディアサイトにて発表。このリリースに、「当面の間、新型(現行型)WRXのプラットフォームをベースとした、内燃機関搭載の次期型WRX STIは生産されない」と記されていた。
次期STIの登場を楽しみとしていた筆者としても大変な衝撃的なニュースである。これは一体どういうことか。ニュースリリースの詳細と現時点での情報整理、今後の見通しを紹介したい。
文/大音安弘
写真/SUBARU
■米国市場で売れなければスポーツカーは成り立たない
先代型WRXのトップグレード「WRX STI」は、2019年末に(2Lターボの水平対向エンジン、名機EJ20型の生産終了にともない)販売を終了した。その一方で2020年初頭の時点では、スバル開発関係者から「次期型WRX STIの開発に動いている」という声が聞こえていた。もちろん詳細が語られることはなかったが、「楽しみにしていて欲しい」というポジティブな情勢だった。
その後、2021年9月10日、米国仕様の新型WRXがワールドプレミアを行い、日本仕様である「WRX S4」が11月25日に発表されたのは皆さんもご存じのとおり。この時点では「次期WRX STIの登場は秒読み」というのは、自動車専門メディアではある種、公然の事実であった。
しかし、今回の米国スバルによるリリース公表により(新型WRX S4と共に進んでいたはずの)WRX STIの開発にストップが掛かったことがわかった。
なぜこのようなことになったのか。
それは、この2年間で大きな動きを見せた世界各国のカーボンニュートラル政策にある。欧州で一気に進んだ環境政策は米国にも波及。そのタイミングで、トランプ政権からバイデン政権へ。世界最大の自動車大国である米国も、バイデン大統領による電動車シフトが強く打ち出されたため、今後さらなる規制強化が見込まれる。その厳しい基準をクリアしつつ、WRX S4を上回る性能を備えたWRX STIを投入することが困難になったというわけだ。
もちろん「米国では無理でも、日本だけでもWRX STIを投入すべき」という声もあるだろう。しかし、それではビジネスとしては成立しない。
実は、WRXシリーズは米国の若いファミリーに人気が高く、先代型も電動車シフトの流れの反動からか、モデル末期でありながらバカ売れ状態に……。米国製スポーツカーの(同性能レベルのモデルの)価格を考慮すると、高性能で走りがいいWRXシリーズは、非常にコスパがいいスポーツカーとして捉えられている。
このため、新型WRX S4もセダンとしての実用性をしっかりと踏まえて開発設計されている。むしろ、米国人気が高いことでWRXシリーズが存続できていると言っても過言ではない。それゆえ、日本だけの販売台数では、STI向けの開発費がペイできない現実がある。
いまや日本市場だけで成立が許されるスポーツカーはごくごく稀少な存在であり、残念ながらWRX STIは(現時点では)その枠に入れなかった…ということになる。
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