昨今の新型車両は、事前にティザー広告を打ち出し、事前予約(先行予約)を受け付けて、発表・発売となることがほとんどだ。先行予約の日程などは、メーカーサイトや本媒体のようなネットメディアで告知され、ユーザーの目に入ることとなる。
しかし、こうした先行予約の開始前に、SNS上には「もう予約した」「先行の前の先行予約」などの投稿が目立つ。ごく一握りとなるが、過去にはメーカーや販売店が最優先にと、特別扱いするカスタマーがいたことも事実である。
なぜこのような現象が起きるのか。自動車販売現場で営業活動に従事していた筆者が、特別扱いの実態を解説していく。
文:佐々木 亘
画像:Adobe stock(トップ:252423656@Adobe stock)
■ロイヤルカスタマーとは違う「特別な」存在
特別扱いを受ける顧客は、一般にディーラーの優良顧客の上に位置する、ロイヤルカスタマーだろうと思う人が多いと思うが、実際にロイヤルカスタマーは、特別扱いを受ける顧客ではない。
ロイヤルカスタマーとは、お店に愛着を持ち継続利用してくれる顧客を指す。もちろん、お店側は最善で最良のおもてなしをするが、ロイヤルカスタマーは、店側の提示するルールを順守してくれることが常だ。販売店との関係性も良好なため、店側を困らせるようなこと(先行予約の受付日程を無視して、早期に予約を入れて欲しいなど)はせがまない。
逆に、マーケティング上のロイヤルカスタマーとは程遠い人が、特別扱いを受けることが多いのだ。販売店と仲良くなり、強い関係性を築き上げても、先行予約のさらに先行で注文ができるわけではない。ディーラーにとって、ルール外の取り扱いが必要となるユーザーは他にいる。
■販売店判断ではないことが多いのが特別扱い
「絶対1番で乗りたいから、1番初めに注文してくれ。」
筆者も現役営業時代、こうした声をもらうことは多かった。担当の顧客から、このような声をもらったときには、先行受注の予定をしっかりと伝え、注文開始日の朝一番で来店してもらい、即注文のサインをもらう。ルール内での一番を案内し、段取りを組んで1番に注文してもらうのだ。このような対応はよくあるし、ルール内での対応であって「特別」ではない。
かつては、正規のルートを外れて、ルール内での1番に、横入りされるケースがあった。販売店本体とメーカーの間に入り込む、関連会社が代表的であり、そのお得意様や紹介者が対象である。
販売店と深い関係は無く、メーカー経由で話が入り、受注開始前に注文を受け付ける。時には、早期に納車するため、注文順を入れ替えることもあった。自社の試乗車を注文する枠を、わざわざ提供するという話も聞いたことがある。
正直、販売店のカスタマー(管理顧客)ではないので、販売店は如何ともしがたい状態だった。かなり稀なケースではあるが、限定車や長納期が想定されるクルマでは、メーカーから、配車枠を一つもらって、注文を受けるという、ウルトラCのような対応もあったようだ。
過去には、販売店が窺い知らぬところで様々な力が働き、特別扱いが発生していた。現在はこうしたことがないと信じたい。もっと大切にしたいカスタマーが数多くいるのだが、こうした力には首を縦に振るしかなったのが、販売店のつらいところだ。
コメント
コメントの使い方