販売のトヨタと言われ、国内では圧倒的なシェアを持つトヨタ自動車。そんなトヨタが、長らく本気で進出しない分野が軽自動車だ。
ピクシスシリーズを扱っているが、全てダイハツOEMであり、トヨタが軽自動車をつくることはない。販売店にも軽自動車の展示車や試乗車があることは、珍しいだろう。
トヨタ販売店が積極的に軽自動車を売らないのはなぜなのか。ホンダや日産は積極的に販売を続ける軽自動車市場に、トヨタ販売店が本格参入しない事情を明らかにする。
文:佐々木 亘
画像:TOYOTA
■一部地域の声を汲み取って始まった軽自動車販売
トヨタの軽自動車販売は、2011年にスタートした。ホンダではN-BOXが販売され、日産ではルークスなどが人気となっていた頃だ。
ワゴンRやムーヴといった、ハイトワゴンの軽自動車が人気を集める中で、トヨタはムーヴコンテのOEMである、ピクシススペースの販売をスタートさせる。
当時の取り扱いはカローラ店とネッツ店に限定した。一方で、軽自動車保有率の高い一部地域(青森、秋田、鳥取、島根、四国4県、福岡を除く九州・沖縄)では、全チャネルで軽自動車を取扱うことを認めている。
軽保有率の高い地域からの強い要望があり、現在では乗用車3種、トラック・バンを2種、ピクシスシリーズとして取り扱うが、多くの店が販売に積極的ではない。軽自動車は扱うが、売っても売らなくても、どちらでもいいもの。トヨタ販売店の軽自動車に対する意識は、この程度だ。
■利益の小さい軽自動車は、販売店経営を悪化させる原因
ホンダのN-BOXは、2021年度国内で最も売れたクルマだ。1位を獲るということは名誉なことであり、ホンダHP内のN-BOXのページには、「No.1」の文字が大きく輝く。
登録車の販売が伸び悩む中で、ホンダや日産は軽自動車に大きく力を入れた。特にホンダは、Nシリーズを販売の中心に置き、スズキ・ダイハツという軽自動車の老舗メーカーに対して、攻勢を強めた形だ。
販売台数では大きな伸びを見せたホンダ・日産だが、一方で販売店利益は、販売台数の伸びほど芳しくはない。
一般に、ディーラーマージン(新車販売における販売店利益)は、車両本体価格の10%から15%程度と言われる。例えば、ヤリス1台(200万円前後)で約30万円、レクサスLS(1200万円前後)では約200万円となるだろう。
しかし軽自動車の場合は、このディーラーマージンが大きく落ちる。N-BOXの上級グレードは、ヤリスと大差ない車両本体価格だが、台当たりの利益は半分以下だ。
かつては、「売れば売るほど赤字」「ドアミラー1枚分の利益」などとも揶揄された軽自動車。さすがに、これは誇張しすぎた表現だが、登録車に比べて利益が少ないのは事実である。
トヨタが本気を出して軽自動車を開発し、登録車からの乗り換えを進めれば、あっという間にトップセールスを記録するはずだ。しかし、これでトップを取った瞬間に、トヨタ販売店の利益は大きく減少する。ヤリス・アルファード・ハリアーなど、登録車で圧倒的な強さを持つトヨタにおいて、軽自動車の薄利多売を、やる意味はない。
さらにトヨタ販社は、メーカー直営がトヨタモビリティ東京1社だけとなり、各地域の販社は生き残りに必死だ。わざわざ経営が苦しくなる軽自動車を売り、会社が傾いても誰も助けてはくれない。トヨタ販社が軽自動車を積極的に売らない理由は、こうした利益の面にある。
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