カーボンニュートラルを目指すメーカーにとって、主力となっているのは電動車だ。電気自動車や各種ハイブリッドがこれにあたるわけだが、トヨタはこれに加えて水素を活用したクルマの開発を進めている。
現在は2代目となったミライのような燃料電池車に加えて、水素を燃焼させるエンジンを搭載したカローラでレースに参戦している。
今回は水素エンジンを搭載したGRヤリスの試乗機会を得たので、国沢光宏氏のレポートをお届けしよう!
文/国沢光宏、写真/塩川雅人(ベストカーWeb編集部)
■GRヤリスの水素エンジンを体験!
「トヨタは水素エンジン車の販売を考えているんじゃないか?」みたいな記事を目にするようになった。「レースで走らせているくらいだから市販前提!」みたいな記事もある。果たして水素エンジン搭載車を販売する計画を持っているのだろうか。
結論から書くと、GRの佐藤プレジデントが記者会見でコメントした通り「富士山に例えるなら五合目。ここから難しくなる」だと思う。
そんな水素エンジンに試乗出来るというので味見させてもらった。場所は写真の通り富士スピードウェイの多目的テストコース。巨大な広場をイメージして頂ければいい。
レブリミットを6000回転に設定してあるだけで、好きに乗っていいという。最近のGR、嬉しいことに試乗する機会を作ってくれた時は何の制約も掛けない。水素エンジンについていえば、信頼性など確保出来ているのだろう。
ということでスタートするや「全開!」。最初は全開で走ることでクルマと自分の信頼感みたいな関係を築ける――と勝手に考えている。トシ取っても直らない悪いクセだったりして。そして全開だと何も解らない(泣)。運転することに集中しちゃうからだ。
全体のフィールとしては「良い意味でガソリン車とあまり変わりませんね」ということになった。普通に走ります。
2本乗れるというので、次はユックリ走ってフィーリングをチェック。
まず燃焼音。意外なことにガソリンとずいぶん違う。ガソリンより高周波なのだ。音を文字で表現するのはヒジョウに難しいけれど、ガソリンを「ブーッ!」だとすれば水素は「カーッ!」という感じ。今まで聞いたことの無い燃焼音だったりする。次に紹介する通り燃焼速度の速さからきているんだと思う。
水素はガソリンの7倍速く燃える。当然ながら音質だって変わってくる。これがどういう特性の違いになるかというと、ネガティブな方では『プレイグニッション』という異常燃焼を引き起こす。
ガソリンの場合、理想空燃費に近い混合比じゃないと爆発しないけれども(薄くても濃くてもダメ)、水素は幅広い空燃費で爆発するのだった。したがって上手にコントロールしないと早期着火しちゃう。
実際、スーパー耐久レースでもプレイグニッション傾向が出ており(ノッキングだと思えばいい)、異常燃焼した際、燃焼室内で一番脆弱なインジェクターの交換をすることになったようだ。
今回試乗した時も若干プレイグニッションは出ていたと思うけれど(異常燃焼音はガソリンと違う)、こらもうパワーを追求しなければ抑えられる。決定的な弱点にならないだろう。
一方、7倍速く燃える特性は、クルマの挙動に影響を与えることがよ~く解った。試乗車の紹介をしていなかったけれど、写真の通りGRヤリスがベース。スーパー耐久で走らせているGRカローラじゃありませんでした。
しかもドア開けたらレカロのフルバケにロールケージ入り。走り出すと前後に機械式LSD入ってる! ターマック仕様のラリー車ですね、これ。
私は11月に開催されるラリージャパンの前走車(ゼロカー)として使おうとしてるんじゃないかと予想。日本のWRCなら最長のSSで30km程度だから、ヤリスのリアスペースに積めるだけの水素で走りきれる。
ラリー車ということなら、やむを得ず振り回してみなければなりません。パイロンの180度ターンが3箇所あるので、サイド使い横向き進入で曲がってみた。
するとどうよ! ガソリンと全く違う挙動である。横滑りを止めるためアクセル踏むのだけれど、ガソリンより圧倒的にレスポンスが早い! 電気自動車のレスポンスに近いと表現しても大ゲサじゃないほど。
もちろんアクセル踏んだ直後はブースト圧が無い。したがってドカンというトルクこそ出ない。でも横滑りを止めるだけのトルクは出る。驚くほどコントロール性高いです。
こうなると思い切り攻められる。2本目と3本目のパイロンターンは気持ちよ~く横向きながら進入し、良い姿勢で立ち上がることが出来た。スーパー耐久レースでも車両の挙動をコントロールしやすいという。そうでしょうね、と思った次第。
水素エンジン搭載車を市販するかどうかは全く不明ながら、ガソリン車と同等以上の楽しさを持っていることはよく解りました。
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