トヨタの最上級セダン「クラウン」。かつてはトヨタ店でのみ販売が許され、トヨタ店にはクラウンだけを乗り継ぎ続けるオーナーが数多くいた。
そこでよく発生していたのがクラウンの指名買いだ。本稿では筆者が体験したクラウンの、ありえない買い方を紹介するとともに、期待が高まる新型クラウンの注文動向などをお伝えしていきたい。
文:佐々木 亘
画像:TOYOTA
■名前だけでOK?形も見ずに全部付け
名前買い、指名買いが非常に多いクラウン。その買い方には大きな特徴がある。
契約に至るクラウンの商談は、その期間(時間)が非常に短い。注文内容は大雑把で、売り手側が不安になることが多いのだ。
一台当たり600~700万円するクルマが、大した折衝もなく売れていく。こんなに簡単で良いのかと、注文者には二度三度、確認をしたくなるものだ。上級グレードになればなるほど、簡単簡潔に注文手続きは終わってしまう。
クラウンという信頼のおける商品は、メーカー・お店・担当営業マンへの強い信頼を作り出した。長年、クラウンを乗り継いできたオーナーにとっては、名前だけで100%信頼ができるものであり、クラウンとの付き合いが長ければ長いほど、その信頼感も大きくなる。
中には、「新型クラウンが出ます」と先行受注が始まる前に、今後の予定としてお伝えしただけで、「じゃあ、一番良いやつを全部オプション付けて契約書作って。すぐ注文するから」と言われることもあった。
後日、姿や形が分からない状態で、価格配信と同時につけられるメーカーオプション全部付けの見積書を持っていくと「なんで注文書じゃないの?」と怒られ、その場で急ぎ注文書を作ったこともある。
オーナーにとっては、クラウンという名前だけで購入対象になるクルマだ。名前で買われていくクルマは、今では非常に珍しい存在となっているだろう。
■誰が一番で注文し納車されるかが大事なポイント
地方都市でよく起こるのは、その地域で「誰が一番に新しいクラウンに乗るのか」問題だ。お互いにクラウンオーナーであることは知った存在であり、その中で最も早く注文し、納車されることが、非常に大切な価値になる。
とはいえ、販売店側にも対応の限界は存在する。そこで、こうしたオーナーたちの存在は事前に認知しておき、先手を打つのが鉄則だ。
まずは、メーカーからの初期配車台数とその時期を確認。各営業担当は、クラウン購入予定者のリストを作り、注文順を考える。その後、店舗全体で情報を共有し、初期配車を誰のどのオーナーにするのかを、会議して決めるのだ。その様子は、プロ野球のドラフト会議に近い。
出来るだけ納車時期を合わせ、順番の前後を避けたい人たちには、ほぼ同時期の配車枠を当て、最短納車日もほぼ同じにする。
そしてカタログはもちろんない、大まかな車両概要しか載っていないスタッフマニュアルを片手に注文書をもらいに行く。クラウンの価格配信から初オーダー日までは、クラウンの注文書を集めるために、オーナーのところを何軒もはしごしたものだ。
クラウンの場合、いかに安く買うかよりも、いかに早く乗るかが大切である。トヨタ店だけで注文を受けていた今までは調整が可能だったが、全店扱いとなり、納車の競争はより激しさを増しそうだ。
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