国内自動車メーカーの2021年度決算は、乗用車7社の営業利益合計が前年比51%増となる4兆6827億円にのぼり、トヨタなどは過去最高益を更新する好決算となった。
そして自工会は「成長・雇用・分配への取組み」を今年の重点テーマに据えて従業員への「分配=賃上げ」に注力し、トヨタは春闘で異例の「期日前満額回答」を出すなど、自動車メーカーの成長と分配に関しては順風満帆にみえる。
しかし、経済団体連合会(経団連)の調査によると、2022年夏の賞与は大手企業全体の中での自動車業界の妥結額はあまり良いとは言えない結果だった。
文/福田俊之、写真/トヨタ、経団連、AdobeStock
■対前年度比17.2%アップの夏季賞与だった自動車メーカー
7月10日(日)に投開票が行われる参議院議員選挙。各党がこぞって争点にしているのが「賃金」だ。主要政党のすべてが賃金の引き上げを公約に掲げ、立憲民主党、共産党のように最低賃金の具体額を示す党もある。
ポストコロナにおいて世界的なインフレ傾向が加速している現状を考えると、賃金引き上げを謳わなければ国民の支持を得られるわけがないという選挙事情が透けて見えるところである。
そんな緊迫した状況のなかでの2022年夏のボーナス。経済団体連合会(経団連)が従業員500人以上の加盟企業を対象に調査を行った結果、回答があった105社の平均は新型コロナの影響を脱し切れていなかった2021年に対して13.8%アップの92万9259円だった。
ボーナスアップはサラリーマンにとってありがたいことだが、では、円安の恩恵などで好業績の自動車メーカーはどうだったのだろうか。回答を行った11社の平均は前年比17.2%アップの93万3744円だったという。
「えっ、平均より4500円しか高くないの? 」と感じた人も多いことだろう。17%アップは一見派手に見えるが、今年の春闘の結果は年間賞与が給与の6.9ヵ月分だったトヨタを含め全社、過去最高値を下回ったままだ。
■賃金デフレの原因はボーナス偏重主義にあり
自動車といえば、日本自動車工業会の豊田章男会長が唱える「550万人の雇用を維持する」というほどの日本の基幹産業と目される花形であったはず。大量の工場労働者を抱える労働集約産業であることから平均賃金、平均賞与が低く出る傾向があるとはいえ、その自動車がボーナスで日本をリードできていないというのは少々寂しい現実だろう。
果たして従業員の生活実態はどのようなものなのだろうか。
「日本で勤務しているかぎり、それほど大きな不満はありません。標準よりは充分に恵まれていると思います。しかし、昨今話題になっている海外、特に先進諸国との格差を考えると、やはり少ないというのが正直なところです」(トヨタ自動車中堅社員)。
「社内ではとても大きな声では言えませんが、賃金デフレの原因はボーナス偏重主義にもあると思っています。トヨタは業績が悪化した時に備えて1990年代から一貫して『頑張りにはボーナスで報いる』という方針を貫いてきましたが、ボーナスは額面のうえでは派手に見えるため、実は抑制しやすい。ウチは年間平均6.9ヵ月分、額にすると200万円超ですが、従業員に『これ以上を要求するのは申し訳ない』と思わせる効果は充分。一方、基本給は安く抑えられており、それで喜ぶのはまさに朝三暮四というものですがね」(同)
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