■自動車メーカーのボーナスは思ったほどよくない
これは言い換えれば、本来は賃金の柱であるはずの基本給を上げていない以上、ボーナスの月数、額面は今より増やすのが筋ということにもなる。その観点では基幹産業である自動車産業の頂点に位置する完成車メーカーのボーナスは、もっと高くてもいいはずだろう。
ちなみに、ほかの業界の今夏のボーナスを見ると、ゼネコンが127万1661円、鉄鋼が101万9071円、電機が96万6053円、化学が94万9980円、機械金属が94万4542円。自動車はその次である。
また、医薬品、商社、海運など経団連の調査に入っていない企業で、もっと多額のボーナスが支給されている業界もあることを考えると、日本経済をリードする自動車=花形産業というイメージと実態はすでに相当かけ離れているとみられる。
もちろん、経営者サイドにしてみれば基本給であれボーナスであれ、引き上げればそれだけ人件費がかさむことになる。自動車メーカーの業績を見ると、トヨタが営業利益3兆円、ホンダが8700億円、日産が2400億円、スズキが1900億円と続く。
経営の調子が悪い企業にとっては悩ましいだろうが、将来に向けた研究開発投資や株主利益の重要性などを無視できないにしても、その気になればボーナスを余計に出す原資がまったくないというわけでもない。
■自動車メーカーのボーナスが増えない理由はなんだろう
にもかかわらず、なぜボーナスは増えないのか。
それはおそらく、今の利益が本当に潤沢な状態で出ているわけではないからだとも言える。経営者は部品メーカー、素材メーカーに対して徹底的に価格低減を要求し、営業費用を圧縮し、企業によっては残業禁止令を出すなどして絞り出した数字であることを肌身で知っている。
現時点では円安の神風が吹いているものの、経済情勢に少しでも変化があれば利益が消し飛んでしまう可能性もある。したがって、どれだけ利益が出ても従業員への還元は後回し、モチベーションを失わせないギリギリの線を狙っているようにも思えてならない。
つまり、日本の自動車業界は産業としては巨大だが、コスト削減の徹底など爪に火を灯すほど節約して利益を出すことに頼りすぎて、付加価値を創出できないという状態にある。自動車メーカーの社員のなかには、新車を大切に乗ってマイカーを10年以上も買い替えない人も少なくないという。
サステイナブルの社会にはふさわしいが、それでは景気浮揚のプラスにもならない。ただ、その理由を詳しく調べると「無駄な出費」を気にするという経済面よりも「乗ってみたい魅力的なクルマが見当たらない」という情けない声も聞く。
米EV大手のテスラのように相次ぐ値上げにもかかわらず、 「消費者離れ」もほとんどなく、ブランド力を強化して労働生産性を高めるようなビジネスを見つけないかぎり、今後もいくら見かけの利益を増やしたところで従業員への還元は限定的なものとなるだろう。
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