昨今は、輸入車であってもほとんどが右ハンドル車であり、国産車と変わらない操作で運転が可能だが、唯一、ウインカーレバーの位置だけは、いまでも国産車とは左右逆に装備されている。普段国産車に乗っている人が輸入車に乗れば(逆もしかり)、誰もが必ず一度は、ウインカーを出そうとしてワイパーを回してしまうだろう。筆者も度々やらかす。
これはもちろん、左ハンドル車で使っているステアリング周りのアセンブリをそのまま、右ハンドル車に使っていることによるものなのだが、ハンドル位置を右にしてくれているのだから、ワイパーとウインカーだって、逆にしてくれてもよさそうなもの。なぜワイパーとウインカーだけは「そのまま」なのだろうか。
文:吉川賢一
写真:エムスリープロダクション、Adobe Stock、写真AC
海外メーカーはISO規格に準拠している
国産車と輸入車でウインカーの位置が逆になっていることについては、準拠している規格が違うことに起因する。日本で売られている日本車はJIS(日本産業規格)の「右ハンドル・右ウインカー」に準拠しているが、輸入車メーカーは、ISO(国際標準化機構)の、「ハンドル位置に関わらず、ウインカーは左側」に準拠しており、そのため、日本で売られている右ハンドル仕様の輸入車も、左ウインカーとなっているのだ。
右側通行であれば、対向車とすれ違うときの距離感がつかみやすいよう、左側に運転手をレイアウトし、右側へはギアチェンジをするためのシフトノブを配置、空いている左手ではウインカーを操作する。このコックピットパッケージングは、人が操縦する工業製品として理に適っている。「ハンドルの位置にかかわらず」というところが、左側通行の日本においては使いづらいところではあるが、世界の大半の国が右側通行(左側通行は、世界のおよそ4分の1)であり、運転するうえで重要であるウインカーの位置を「左」と決めるのは、仕方のないことといえる。
輸入メーカーとしては「変える必要がない」
輸入車メーカーが、ハンドルを右にしてくれているのに、ウインカーを右にしてくれないわけに関しては、「コストの問題」とされることもあるが、ウインカーレバーを右にするのに何万円もコストがかかるわけでないことを考えると、実際にはコストの問題というよりも、「ハンドル位置に関わらず、ウインカーは左側」というISOのルールに従わない日本のためだけに、右ウインカーをつくる意味が見いだせない(=面倒)」というのが本音なのではないか、と筆者は考える。「ハンドル位置ならまだしも、ウインカーはそれほど不便でもないだろう」くらいの考えなのだろう。
そしてこの件は、そっとしておいたほうがいい、と筆者は思う。世界大半の国で使いやすいように決められているルールが、グローバル化が進む現在において少数派にも使いやすいように、と改定されるとは思えず、この問題を提起すれば、「じゃあ世界の大半の国に合わせて右側通行にすればよいではないか」としかならない気がする。
そこまでにならずとも、「JISとISOの規格が違うからいけないんだ」となれば、JISがISOに従わなければならなくなるのは明らか。そうなると、右ハンドルの国産車も、左ウインカーとなる可能性だってある。
すでに手放したが、つい3か月ほど前まで、筆者はフランスメーカーの右ハンドルマニュアル車を所有していた。シフトノブとウインカーの操作をする左手が、ものすごく忙しいのに対し、ハンドルから手を放す必要がない右手は「ヒマ」。乗っているうちに慣れたが、最初は結構面倒だった。
もちろんこれはレアケースではあるが、国産車の右ウインカーを守るためにも、この件に関しては許容していたほうがいいだろう、と筆者は思っている。
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