日本を代表する名種牡馬「ディープインパクト」。まさに最強の遺伝子を持つ種牡馬だが、クルマ界にも最強の遺伝子を持つディープインパクト的なエンジンがあるはず。
やや強引だが、名車を育て上げた名エンジンを、クルマ界のディープインパクトとして讃えようというのがこの企画。
このエンジンなくして、この名車なし。最強の遺伝子を持つエンジンたちを紹介しよう。
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
■世界最強の直6ツインターボはGT-Rを支えた
エンジンは自動車を構成する要素のひとつだが、ボディやプラットフォームとは区分されることが多い。
エンジン(トランスミッションまで含めてパワートレーンとする見方もある)はさまざまな車種に搭載され、世代交代の周期も長いからだ。開発コストの高いメカニズムでもあり、ボディ、プラットフォーム、サスペンションなどに比べて独自性が強い。
そうなると優れたエンジンがクルマを育てる現象も生じる。走りに関していえば、エンジンに見合うだけの走行安定性を確保すべく、ボディ剛性を高めたりサスペンションを熟成させるからだ。
また良いエンジンは概して潜在的な可能性も高く、改良を受けることで性能を着実に向上させる。エンジンとサスペンションやボディが、互いに協調しながら進化する。
この相乗効果が最も顕著だったのは、RB26DETT型を搭載する日産スカイラインGT-Rだろう。母体となったRB型直列6気筒エンジンは、5代目ローレルや7代目スカイラインを皮切りに、幅広い日産車に搭載された。
RB26DETT型はこれを出発点に開発され、排気量を2.6Lに拡大している。1気筒当たり4個のバルブを備えた合計24バルブのDOHC(ツインカム)で、ツインターボを装着した。
このエンジンを最初に搭載したのは、1989年に8代目のR32型スカイラインで復活したGT-Rだ。最高出力は280馬力(6800回転)、最大トルクは36kg-m(4400回転)であった。
RB26DETT型は、もともとGT-Rのレース参戦を前提に開発され、チューニングによって動力性能を大幅に高められる。例えば1993年のグループA仕様は、最高出力が550馬力であった。
1995年に発売された9代目のR33型スカイラインGT-Rは、ボディを大型化して賛否両論だったが、エンジンがクルマを育てる意味では走行安定性を大幅に向上させた。
従来の8代目は運転感覚が軽快な半面、シャシーがパワーに負ける少し頼りない印象を受けたが、9代目では改善されている。
ホイールベース(前輪と後輪の間隔)が8代目に比べて105mm長い2720mmになったことも、機敏な印象が薄れた半面、安定性を高めることに寄与した。動力性能は最高出力を280馬力に据え置きながら、最大トルクを37.5kg-m(4400回転)に高めている。
1999年には10代目のR34型スカイラインGT-Rが発売された。当時はすでにミニバンが売れ筋になり、セダンやクーペの衰退が始まっていた。そこでスカイラインは運転の楽しさを追求すべく、ボディをコンパクト化している。
ホイールベースは9代目に比べて55mm短い2665mmになり、ボディは高剛性化されたから、試乗すると軽く小さくなった印象を受けた。峠道の急なカーブを曲がる時でも旋回軌跡を拡大させにくく、車両を内側へ向けやすい。
エンジンも進化して最大トルクは40kgm(4400回転)に達したが、シャシー性能には充分な余裕があった。
このようにスカイラインGT-RはRB26DETT型エンジンに育てられ、9代目のR34型で一緒に幕を閉じた。後継の現行GT-Rは、エンジンやシャシーだけでなく、コンセプトまでまったく違うクルマだ。
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