2022年8月23日に発表・発売されたトヨタ シエンタ。各地のトヨタ販売店を見る限り、その初動は良く、大ヒットモデルになる気配がプンプンしてくる。
シエンタは、ライバルを研究し尽くし、八艘飛びに超えていくという、トヨタらしさが存分に発揮されたクルマだ。本稿では、ライバルとの勝負のポイントと、トヨタがシエンタに与えた「巧さ」を考えていく。
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA、HONDA
■家の玄関のように出入りのしやすいシエンタ
家族で使う、長距離を移動することを主眼に置かれがちなファミリーカーだが、最もよく使われるシチュエーションは、「自宅周囲の短距離移動」であろう。自宅から幼稚園や学校への送迎、スーパーへの買い物など、移動時間にして10分程度を、クルマで移動するケースが、ファミリーカーでは群を抜いて多い。
クルマを2台所有できる環境であれば、こうした状況では軽ハイトワゴンを保有し使い分けるのが最適。しかし、多くのユーザーは1台のクルマで長距離と短距離の両刀使いにするはずだ。
この圧倒的に頻度の多い超短距離使用で、シエンタは使い心地の良いクルマになる。
張り出しの少ないインパネ、Bピラーに内蔵されたグリップなど、無駄な凹凸が少なく、荷物を抱えた状態、あるいは背負った状態でも楽に乗り降りができるシエンタの車内。車内で荷物を降ろす、背負うといった動きもしやすい。
玄関の広い家は使い勝手が良い。こうした特徴が、新型シエンタには備わっている。
■本質的な要不要を吟味し、わかりやすい数字に反映
ボディサイズはほぼ同等だが、室内長は依然としてフリードが長い。約500mmの差は大きく、外から見てもシートに座っても、車内が広く感じられるのはフリードの方だ。
シートの作り込みも、フリードの方が一枚上手。2列目にキャプテンシート仕様があるのはもちろんだが、1列目シートのホールド感もフリードの方が高く、長時間乗っていても疲れにくい。
新型になってもシエンタには、モデル末期のフリードに劣る点も大きくある。それでも、シエンタがフリードのコピーになる必要はないと筆者は思う。新型シエンタでは「らしさ」を伸ばすための取捨選択が行われたことを、強く感じるのだ。
特に車両本体価格へのこだわりが深い。
フリードの最廉価モデルはG(ガソリン6人乗り)で227万5900円だ。対するシエンタはX(ガソリン5人乗り)で195万円に抑えた。最上級はフリードモデューロX(ハイブリッド7人乗り2WD)で327万8000円、シエンタZ(ハイブリッド7人乗りE-four)で310万8000円である。
シエンタでは最上級グレードZのハイブリッド2WDが300万円以下に収まっているのもポイントだ。最上級グレードでもホイールがスチールにキャップという点は少し気になるが、装備の要不要を吟味して、ユーザーが最も気にする価格に、シエンタらしさを出している。
量販ファミリーカーで「(価格が)高いかも」と思わせるのは一番のリスクだ。販売の肝になるところ以外では、フリードの強さを甘んじて受け入れる。これにより無理のない範囲で実用的な進化を遂げ、販売面で勝負できる価格を作り上げた。
販売店とのリレーションシップを密にする、トヨタならではの策とも言える。
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