雪道で車の安全を左右する「スタッドレスタイヤ」が、近年飛躍的に進化している。
スタッドレスタイヤの進化の凄さは、ある日突然性能アップしたわけではなく、モデルチェンジするごとに、積み重ねるように着実な進化を続けてきたところにある。しかし、その地道な積み重ねで、ひと昔前とは別物といえるほど進化を遂げた。
雪国では身近ながら、雪に慣れていない地域のユーザーにとって“近いようで遠い”存在の最新スタッドレスタイヤは、具体的にいったいどこが、どのように凄いのだろうか。
日欧大手メーカーのタイヤを例に挙げながら、スタッドレスタイヤの歴史と進化、そしてその最新事情と賢くタイヤを選ぶコツも合わせて解説する。
文:斎藤聡/写真:編集部
当初は課題も多かったスタッドレスの性能
周知のように、事の発端は1980年代に起こった「スパイクタイヤ」による粉塵問題。そのため1991年3月でスパイクタイヤの販売が禁止になる。その少し前からスパイクタイヤに代わるタイヤとして「スタッドレスタイヤ」の開発が始まった。
各社1985年くらいからスタッドレスタイヤを本格的に作り出した。1980年代は(タイヤの)ゴムを氷雪路面に対応させるため柔らかくする方向で開発が進められていた。そのため当時のスタッドレスに乗ると、100km/hのレーンチェンジで修正舵が必要なくらい“グニャ付き”や、“ヨレ感”が強くあった。
1991年の年末から本格的にスタッドレスタイヤの時代に突入。するとすぐに問題になったのが、スタッドレスタイヤによって凍結路面が磨かれ出現する「ミラーバーン」。北海道で出現し大きな衝撃とともに話題になった。
そのため、より氷雪性能を高めたソフトなゴムを搭載して、氷雪性能に特化した北海道、東北限定モデルが発売される。
この限定タイヤは、絶対的な氷雪性能の不足を感じるユーザーからの強い要望があり全国展開になったりした。ダンロップの「グラスピック PW806」やヨコハマの「ガーデックス・HYBRID」などがそれ。
スタッドレスの成熟と明らかになった新たな問題
1990年代半ば、氷の路面がクローズアップされるようになると、タイヤが氷の路面で滑る要因は、タイヤと氷の路面の間の薄い水膜にあることがわかってくる。その結果、各社“除水性能”に力を入れるようになる。
1994年にブリヂストンは気泡の入った「ブリザック MZ01」を発表。吸水性能をいち早く打ち出し、ここから発泡ゴム技術をコアに、独自の進化を始めることになる。
これに対してダンロップは1995年に「グラスピック HS-1」で水を弾いで除水する撥水ゴムを発表。
ミシュランはタイヤ表面にある極細溝の性能に着目し、1995年にY字サイプ(=極細溝)の「Wエッジ」を発売。磨耗後に極細溝が増え、ブロックの柔軟性が保たれるというのが謳い文句だったが、じつは極細溝のスポイト効果による吸水性能を狙っていたのではないかと思われる。
また、ミシュランは、早期からギザギザの極細溝を採用し、優れたひっかき性能を備えていたが、実はギザギザの極細溝は製造が難しく、他メーカーが早期には追随できないものだった。
各社がギザギザの極細溝を採用することになって明らかになるが、吸水・除水性能が上がり、ゴムと氷の路面の密着性が高まってくると極細溝の総延長が、氷をひっかく性能に大きな効果があることが分かってくる。
ここまでスタッドレスタイヤが成熟してきたことで問題になるのが、ブロックの倒れ込みによる実接地面積の減少(≒グリップダウン)と、ドライ路面でのヨレ。
1997年にミシュランは、“Zサイプ”という深さ方向に凹凸のある立体極細溝付きの「マキシアイス」を発表。ブリヂストンも3Dサイプを採用した「ブリザック MZ03」を発売する。
ダンロップとヨコハマは少し遅れて、2002年にダンロップがミウラ折りサイプを採用した「グラスピック HS2」を、ヨコハマは2005年にピラミッドサイプを採用した「アイスガード IG20(愛称=アイスガードブラック)」を発表する。
このあたりになるとグニャつくような乗り味のスタッドレスタイヤはほぼなくなった。ソフトなゴムを採用しながら3Dサイプによって、加減速コーナリング時のブロックのヨレを最小減に抑え、乗り味がぐっと良くなったのがこの頃。
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