スバルといえばAWD、アイサイト、そして水平対向エンジンなどエポックメイキングな技術で多くのファンを獲得しているブランドだ。
しかし、そんなファンからも疑問に思われているのが「CVT」にこだわり続けるスバルの姿勢。STI S4などのスポーツモデルにもCVTを設定している。
たしかにスバルのCVTである「リニアトロニック」の完成度は高いが、もしや引くに引けなくなって多段ATへの転向ができないのではなんて思ったり。
なぜスバルがCVTにこだわるのか。専門家に聞きました。
文:鈴木直也/写真:スバル
■スバルの主戦場ではDCTか多段ATがメイン
ここ最近、スバルのクルマはおしなべて評価が高いが、「敢えて欠点を指摘すれば」という文脈で登場するのはたいていCVTの問題だ。
2009年のレガシィ以来、スバルのATはリニアトロニックと呼ばれるチェーン式CVTに一本化されたが、そのドライビリティについて、走りにうるさいクルマ好きから批判の声が絶えない。
指摘されるのはたいていCVT特有の“ラバーフィール”だ。エンジン回転だけ先行して上昇し、後から車速がついてくるアノ感覚。
これが、ダイレクトなシフト感をヨシとするクルマ好きには許せない。もちろん、スバル自身ものこの問題は十分把握していて、改良が進んだ最近のニューモデルでは、車速とエンジン回転の関係はほとんど違和感を感じさせないほど自然になっている。
他にも、全開加速ではわざとステップシフトする制御を入れたり、パドルシフトでマニュアル風にドライバー自身が制御できるモードを用意したり、そのドライバビリティは大きく改善されている。
CVTのラバーフィールが大嫌いとされているアメリカ人が、好んでスバル車を受け入れている事実をみればわかるとおり、スバル・リニアトロニックに対する一般ユーザーの評価は悪くない。
ドライバビリティ、燃費効率、信頼性など、トランスミッションに求められる諸性能についてスバル・リニアトロニックはじゅうぶん合格点を与えられる。
ただし、では現状のスバル・リニアトロニックがセグメントベストのATかというと、残念ながらそこまで評価は高くない。
スバルが属するC/Dセグメントは近年進化が著しいステップATが多数派で、欧州勢にはDCTも多い。
どちらも、伝達効率やダイレクトな駆動フィールではCVTをしのぐという評価が一般的。結果として、CVTを選択しているメーカーはスバル以外にはほとんど見かけない(ハイブリッドなどの電気式CVTはのぞく)。
くわえて、C/Dセグメントには高性能車も少なくないから、本質的に大トルクの伝達が苦手なCVTはそこも苦手。
スバルは最大トルク400NmのインプレッサS4でもCVTだが、世界的に見るとこれはきわめて珍しい例といっていい。
■苦渋の選択だったスバルのCVT選択
では、そもそもなぜスバルが主力ATとしてリニアトロニックCVTを選択したのかだが、これは技術トレンドの移り変わるタイミングが関連している。
リニアトロニックは2009年発表の5代目レガシィ(BM/BR系)でデビューしたわけだから、その企画/開発は21世紀に入って間もなくのスタート。この時代の技術環境を考えると、当時のスバルの駆動系開発者の悩みが見えてくる。
安全パイで行くなら従来から使ってきたステップATを進化させるのが無難だが、現在のような多段/高効率ユニットは一般的ではなく、自力開発では5代目レガシィには間に合わない。
DCTはボルグワーナーと組んだVWが大量生産に入りつつあった頃だが、日本勢でそれに取り組んでいたのはR35GT‐RやランエボXなどのスポーツカーのみ。
VWなみの量産効果がなければスバルがやろうとしてもコスト的に厳しい。残るはCVTだが、これもスバルみたいに縦置きで使おうとすると、狭いスペースにプーリーを押し込むのが困難。つまり、どれを選んでも茨の道なのだ。
その中から、結果的にスバルはチェーン式CVTを選択し、リニアトロニックCVTを開発する方針を選ぶわけだが、これには1999年にほぼ同じチェーン式CVTを市販化していたアウディの先例が少なからず影響していると思われる。
アウディはスバルと並ぶ数少ない縦置き4WDメーカーで、ATに関する悩みもスバルとまったく同じ。
それを解決するために同じドイツの大手サプライヤーであるシェフラーと組み、シェフラー傘下のルークが生産するチェーンを使ったCVTを開発。
それを“マルチトロニック”と称して製品化した。スバルの技術者がそれに関心を持たないはずがない。
スバルが量産可能なATの中で、当時もっとも優れた燃費効率を狙えるのがアウディと同じチェーン式CVT。そういう結論に達したのではなかろうか。
ただ、みなさんご存知のとおり、その後のVW/アウディグループはATの主力をDCT(DSG/Sトロニック)に変更し、マルチトロニックはフェイドアウトしつつある。
このあたりも、スバルのCVTを嫌う人が「そら見たことか!」という根拠になっているのだが、そこはむしろ市場によって得意不得意があったと見るべきだろう。
つまり、DCTは速度レンジが早く走りの質にうるさいユーザーが多い欧州向き。CVTは渋滞が多く燃費コンシャスな北米とアジアのマーケットが本質的に向いているのだ。
そう考えると、結果的に市場環境を問わず世界中どこでも上手く対応したのは、いちばん歴史の古いステップATだったという皮肉な結果となる。
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