競技の世界は好敵手がいてはじめて成立するが、それは他の分野においても同様だ。クルマの歴史上にも多くのライバル関係が存在していて、どちらかの勝利で決着がついたものがあれば、現在もシェアをめぐって激しい戦いを繰り広げている場合もある。
ライバルがいるからこそクルマの技術や品質は進化し、ファンだって盛り上がれるのは間違いない。そこで今回は、各カテゴリーの「ライバル列伝」を紹介していきたい。仁義なき(?)戦いを制したのはどのモデルだ?
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、日産、ホンダ、三菱自動車、FavCars.com
決め手になったのは納期だった!?「ホンダ・フリードVSトヨタ・シエンタ」
2022年の日本国内ミニバン販売台数で堂々の1位に輝いたのは7万9525台を売り上げたホンダのフリード。現行型のフリードは2016年登場の2代目モデルであり、新車効果で売れたわけではない。販売台数2位のトヨタ シエンタは2022年に最新型がリリースされているものの、フリードには約1万台の差をつけられてしまった。
もちろんフリードはトップになるだけの魅力を備えたクルマだが、最新のシエンタだって、モダンなボディフォルムに余裕のある3列シート、効率に優れたハイブリッドシステムなど、7年ぶりのモデルチェンジを踏まえてオシャレかつ実用性に富んだクルマに仕上がっている。
だが、こんなシエンタにも弱点はあった。それは納期だ。新規開発車で、半導体危不足などの影響をもろに受けてしまったシエンタに対して、現行型のデビューから年月が経過しているフリードの納期はずっと短く、さらにモデルチェンジが近いと言われるだけに値引き率も高い。これが実用性を重視する顧客の心に響き、なるべく早く新車に乗り換えたい層の取り込みに成功したのだ。
最近になってようやくシエンタの納期待ち問題も解消に向かいつつあるという。ここからの巻き返しが期待できるが、ひとまず2022年の販売台数競争はホンダ フリードに軍配が上がった。
そしてプラドが残った「トヨタ・ランドクルーザープラドVS三菱・パジェロ」
三菱自動車が1982~2019年に販売していたSUVがパジェロ。発売当初はSUVではなくクロスカントリー(クロカン)モデルやRV(レクリエーションビークル)などと呼ばれたカテゴリーのクルマで、高い車高や大径タイヤ、4WDシステムの採用などによって悪路も走行可能な万能車的位置付けにあった。
1980年代初期にパジェロのような乗用車にも使える国産クロカンモデルは珍しく、初代に続き1991年に登場した2代目も大ヒット。パジェロは文句なしに国産クロカンモデルの代表格に成長した。
もちろん、こうした状況を他メーカーが黙って見ているわけはない。トヨタは自社のランドクルーザーに乗用車テイストの強いプラドを追加し、本家である本格クロカンモデルのランクルとは異なる道を歩ませることになる。それが1990年のこと。
ランドクルーザープラドがパジェロを意識したモデルだったのは間違いなく、実際に1996年に登場した2代目プラドは、当時のパジェロによく似ていると一部で揶揄されることもあった。だが、見た目は似ていてもプラドはプラドであり、独自バリエーションの展開などで攻勢をかけ、徐々にパジェロの牙城を切り崩していった。
そしてパジェロは1999年の3代目で道を誤ってしまう。この頃にはSUVにもコンパクトなモデルが多数登場していたが、パジェロはこの3代目で大型化を選択。サイズが大きくなったゆえのメリットも多かったものの、時代の流れからややズレてしまったことに加えて、2000年以降に発覚した三菱自動車の不祥事もイメージを下げる結果になった。
パジェロは2007年に4代目へと進化するが、このシリーズが持つ硬派な雰囲気は保たれていた。しかし、プラドを筆頭とするライバルはより顧客の要望に沿ったクルマへと変化していて、アウトランダーなど、三菱自身がリリースする他SUVの影響もあって販売台数を伸ばせず、2019年に長い歴史の幕を閉じることになった。
現行型プラドは2009年に発売された古参だが、現在でも売れゆきは好調だという。そして2023年には新型の登場もウワサされている。ランドクルーザープラドVSパジェロの勝負は、後発のプラドが現時点では勝利していると言える。果たしてパジェロの復活と逆襲はあるのか?
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