今年2023年1月20日、トラックドライバーをはじめ運送事業関係者にとって寝耳に水のニュースが舞い込んできた。国土交通省が令和6年度中を目処に導入するという「高速道路の深夜割引制度」の見直しだ。
東名・東京料金所での深夜0時待ちの渋滞が事の発端で、路上での時間調整をさせないことと、サービスエリアの混雑緩和が目的らしい。
片や「2023年問題」も現実のものとなった。「2024年問題」(年間960時間の残業規制)に先行して、「60時間超残業代は5割増」が4月1日から中小企業でも始まったのだ。
まさに運送業界には試練となるこの2つの問題について、現役のトラックドライバーにしてジャーナリストの長野潤一が斬る!
文/長野潤一、写真・図/フルロード編集部・国土交通省・全日本トラック協会
*2023年3月発行トラックマガジン「フルロード」第48号より
深夜割引の変更点
深夜割引の改正案は国土交通省と高速道路3社(ネクスコ東日本、中日本、西日本)が発表したもの。令和6年度中に導入される見通しだ。
制度改正の要点は、これまで「0~4時の間に少しでも高速道路にいれば、その走行全体の利用料が3割引」だったのが、改正後は「深夜割引時間帯に実際に走行した距離のみ3割引」になるという。
そうなると当然、割引額は減少して利用者の負担は増える。それを補うために、深夜割引の時間帯を22~5時に3時間拡大し、400kmを超える分の通行料金の割引率を40~50%に拡大する(長距離逓減制の拡充)。詳細はまだこれらか詰める段階だが、全体として利用者の負担は増えるだろう。
走行しているかどうかは高速道路上に増設する無線通信アンテナで監視する。また、従来のように出口料金所の通過時に割引額が決定される方式ではなく、深夜走行の割引分が後日、ETCコーポレートカードやETCマイレージサービスに還元されるかたちだ。
改正案の欠点
筆者はこの制度改正には反対である。その理由を挙げる。
1. 東京料金所午前0時の“深夜割引待ちの渋滞”は発生しても10分程度で、道路交通全体から見ると大問題ではない(毎朝の東名から都心に向かう渋滞(約1時間)や、週末の行楽地に向かう渋滞(10km以上)のほうが大問題だ
2. SA・PAの混雑問題は降ろし地の近くに待機場がほとんど無いことが根本原因
3. 500km程度を利用する長距離トラックの層の厚い部分にとっては値上げとなる
4. 通行料金が毎回コロコロ変わるシステムでは料金請求がしにくい
5. 車両の走行状態を検知する無線通信アンテナ設置やシステム改修に莫大な費用がかかる
後半で対案を示したいが、実際にいくら違ってくるのか? 長距離のルートを代表して、東京―大阪(吹田)、東京―福岡の2例でシミュレーションしてみよう。
表はあくまでも筆者が試算した値であるが、正規料金は東京—吹田で約300円、東京—福岡で約4600円安くなる。
これは400kmを超える部分の長距離逓減割引率が効いているためだが、東京―吹田の500km程度の長距離では、400kmを超える部分がほとんどなく、長距離逓減の恩恵にあずかれない。
深夜割引後の高速料金は、「一般的な利用パターン」を想定すると、東京—吹田で約5100円アップ、東京—福岡で約1100円アップとなる。
「一般的な利用パターン」について補足すると、輸送形態には大きく分けて「路線」(宅配便や郵便)と「一般」(工業製品など)がある。
「路線」の場合は、昼間は寝ていて夜通し走るパターンで、新制度での深夜割引の恩恵を受けやすい。しかし、「一般」は昼夜となく働く代わりに、人間が最も眠たい0~4時の時間帯にはSA・PAで寝ることができる。
改正後は深夜に高速道路に居るにもかかわらず、ほとんど深夜割引を受けられなくなる可能性がある。
もし、それでも割引を受けようと深夜に起きてシャカリキになって走れば、今度は昼間に注意散漫になって事故を起こしたり、健康被害が出るかも知れない。まったく、「働き方改革」に逆行した制度だといわざるを得ない。
前述のように、導入が予定される長距離逓減制の拡充(長く走ったほど1kmの料金が安くなる)は、東京—福岡(1000km超)などの超長距離でしか恩恵にあずかれず、ごく一部の事業者しか利用する機会がなく不公平感がある。
また、料金が途切れる利用方法(新直轄の高速道路や、第二京阪、名二環などを乗り継ぐ)はしなくなるので、インフラの最適利用に歪みが生じる。
働き方改革で今後増加が見込まれる「中継輸送」(中継点で一度高速を降りる)にも対応していない。乗用車での利用者にとっても「東京から九州にクルマで行く途中に大阪の親戚に寄っていく」といった使い方をする際に割高になり、「自由に高速道路を使える」という気楽さがなくなる。