「背が高くて逞しい」。そんなSUVの常識が変わろうとしている。
これまでSUVといえば、背の高いモデルが中心だった。しかし、ここにきてセダンやハッチバック車とさほど変わらない“背が高くないSUV”が増えてきている。
実は、いま最も売れているSUVのトヨタ C-HRもその代表例で、直近では2019年3月にマツダが発表した新型車CX-30も背が低いモデル。このほかBMWなどの輸入車メーカーも標準的なSUVに比べて背が低いモデルを相次いで投入している。
なぜ、いま背が高くないSUVが増えているのか? 背景には背の高さを抑えることで得られるさまざまなメリットがある。
文:渡辺陽一郎/写真:編集部、MAZDA
マツダも“背が高くないSUV”を新たに投入
SUVは全般的に背が高い。前輪駆動のプラットフォームを使うシティ派SUVでも、全高は1600~1750mmに達する。後輪駆動をベースにしたオフロードSUVになると、ジムニー以外は大半が1800mmを上まわる。
悪路のデコボコを乗り越えるために最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)を200mm前後まで持ち上げ、十分な室内高を確保すると、背が高くなりやすい。
SUVはもともと悪路で使う作業車としてスタートした。ランドクルーザーの前身がトヨタ ジープの車名で発売されたのは1951年だ。
荷物を積み、ヘルメットを被って乗車したり、悪路で乗員の体が上下に大きく揺すられることを考えると、室内高と荷室高には充分な余裕が必要だった。このような事情から、SUVは今でも背が高い。
ところが最近は、全高が1550mm以下に収まるSUVも登場してきた。日本車では、C-HR、CX-3、XVの全高が1550mmで、先日概要が発表されたマツダCX-30は1540mmに抑えた。
輸入車では、BMW X2が1535mm、アウディQ2は1520mm、メルセデスベンツ GLAとボルボ V60クロスカントリーは1505mmという具合だ。
ちなみにSUVの外観を見ると、上側はいずれもワゴンやハッチバックに準じた形状になる。ボディの下側は大径サイズのタイヤを装着するなど、悪路の走破も可能にしたから見栄えも力強い。
いい換えれば悪路に対応した足まわりを備えれば、すべてのボディタイプがSUVになり得る。レガシィアウトバックは、北米仕様にセダンを用意した時期があり、アメリカ車のAMCイーグルはクーペやコンバーチブルまで揃えた。
SUV自体、複数のカテゴリーを掛け合わせたクロスオーバーだ。そこからさらにワゴンやハッチバックに近付けた背の低いタイプを「クロスオーバーSUV」と呼ぶことが多い。
背が低いSUVを各社が投入する理由
全高を1500~1550mmに設定した比較的背の低いクロスオーバーSUVのメリットは、さまざまな機能をバランス良く向上できることだ。
室内高を適度な着座姿勢と十分な頭上空間の得られる1200~1300mmに設定して、なおかつ最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)も150~200mmを確保すると、全高はちょうど1500~1550mmに収まる。
クルマの全高を機能的に定義すると、必要な室内高と最低地上高が確保されれば、全高は低ければ低いほど良い。重心は下がり、車両重量は軽くなり、空気抵抗も減るからだ。
そうなれば、動力性能、走行安定性、乗り心地、燃費など、クルマの幅広い性能にメリットをもたらす。
そして、必要な室内高と最低地上高を確保して、天井をムダのない高さに設定すると、全高は1500~1550mmになるわけだ。
従って全高が1500~1550mmのクルマを見ると、走行性能と居住性を高い水準で調和させていることが多い。
XVとC-HRは、後席を含めて居住性が快適だ。走行安定性も優れている。CX-3は後席の足元空間は狭めだが、頭上には余裕があって前席は快適に座れる。乗り心地と安定性も満足できる。輸入車では、アウディQ2が上級のQ3に近い居住性を確保した。
一方、全高が1500mmを下まわると、主に後席に座った時に、腰が落ち込んで膝が持ち上がりやすくなってしまう。窮屈感が生じやすい。
逆に全高が1550mmを超えると、後席の頭上空間が拡大して車内は開放的になるが、走行安定性と乗り心地の調和が難しくなる。
安定性を確保するために操舵感を鈍く抑えたり、低速域での乗り心地が粗くなるなど、走りのバランスも悪化しやすい。日本では全高が1550mmを超えると、立体駐車場を利用しにくくなる。
そこを1500~1550mmにすれば、居住性から乗り心地まで、いろいろな機能のバランスが良くなる。そこで全高が1550mm以下のSUVが増えてきた。
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