大抵の路線バスには、ドアの開閉と連動してなかなかの大音量で車内に響き渡るブザーが付いている。これってホントにひつようなのか。また、付けるとどんなメリットがあるのだろうか?
文・写真:中山修一
■よく聞くあの言葉と同じ語源
ブザー、英語で書くとbuzzerになるこの言葉は、400年以上の歴史を刻んでいるらしい。1600年代の始め頃に、虫が羽音を立てるという意味で使われたのがルーツとされる。
1870年代のイギリスでは、操業中の工場内で労働者を1カ所に呼び集める、または解散させる際に鳴らす汽笛をブザーと呼んでいた。
汽笛の鳴る様子が虫の羽音のように騒々しかったところから命名されたのか、汽笛の音を聞いて集まってくる労働者達の穏やかではない様子を、襲い掛かる虫の大群に例えて、そう呼ぶようになったのかは定かではない。
その後1882年になると、電気の力を使って大きな音を立てる機械のことをブザーと呼ぶように変わり、今日も大体同じニュアンスで使われ続けている。
ちなみに、SNSが普及してから頻繁に聞くようになった「バズる」も、ブザーと語源が一緒だ。バズるは元々マーケティング用語ということで、集まる側より集めたい側のほうが積極的に用いる傾向が今も強い。
■安心・安全を「音」で運ぶ
ブザーという言葉がそういった経緯を持っているのが分かったところで、話の軸をバスに移そう。ここでは、バスのドアが開閉する時にほぼ必ず鳴る、あのブザーに注目したい。
とりわけ路線バスにおいて、かなり昔のバスから開閉ブザー付きが当たり前だったため、何十年もの間、切っても切れない間柄にあると言える。
いつ頃からブザーが付くようになったのか……どうやらバスのワンマン化後、それまで車掌さんが手で開け閉めしていたドアが自動式に変わった1960〜70年代が、ドアブザー時代の幕開けだったと考えられる。
ドアが2カ所以上ある車両の場合、大抵は後ろ側のドアに開閉ブザーが取り付けられている。後ドアとは対照的に前ドアにまでブザーが付いているバスは極めて少ない。
車掌さんが乗っていた時代なら、ドアの脇に監視役=車掌さんがいるため、安全確認は目視と口頭で賄えていた。ところがワンマンになると、前ドアはともかく後ろのドアを、運転席から確実に監視するのは難しい。
後ろのドアを開閉したとき、ドアの近くにいた人が気付かず転落したり扉に挟まれたりしたら大変なことになる。
それを防ぐため、巻き込まれると危険なアクションが起きていることを、乗客に音で知らせる装置=ブザーを取り付けて、監視役の代わりにしたわけだ。
最近はバリアフリーの観点をはじめ、より安全性が重視されるようになったのもあり、営業運転を行う路線バス車両には、後ろの扉に限り開閉ブザーの取り付けが半ば義務化されている。