2019年5月17日、トヨタ自動車より新型スープラが発表発売となった。
17年ぶりの復活なのに、タイトルで「初志貫徹」と記したのはなぜか。それはスープラ復活のストーリーを知れば納得していただけるだろう。
豊田章男社長が今は亡きトヨタのマスタードライバー、成瀬弘氏にドライビングの訓練を受けて腕を上げ、その座を受け継いだのは有名な話だが、ニュルブルクリンクを走るたびに忸怩たる思いがあったのだという。
以下、新型スープラはどのような志のもとで生まれ、どんなクルマとなったのかを、改めて紹介したい。
※本稿は2019年5月のものです
文:ベストカー編集部/写真:平野学
初出:『ベストカー』 2019年6月10日号
■17年の道のりは長く険しかった
「ドイツメーカーは新型車でニュルを走っているのに、トヨタが勝負できるのは中古のスープラしかない」
師匠である成瀬氏に言われた、厳しい言葉だった。訓練車だった80スープラは素晴らしいスポーツカーだったが、生産を終了して何年も経つのにその跡を継ぐクルマがトヨタにはない。
当時、豊田氏は「私が社長になったら、必ずスープラを復活させる」と成瀬氏に誓っていたのだ。
2009年に社長に就任するも、品質問題、東日本大震災が立て続けに起こり、2010年には成瀬氏が不慮の事故死を遂げてしまう。
結局、開発のスタートは2013年まで待たなければなかったが、回り道はしたもののスープラは直6、FRの伝統を守って見事に復活した。だからこそ「初志貫徹」なのである。
上はGAZOO RacingがYouTubeで公開している「Supra is back to Nürburgring(日本語字幕付き)」と名付けられた動画。「Supra is back.」という言葉に込められているのは、単なる「名車復活への喜び」だけでは、きっとない。
■BMWとはまったく別のチームで開発
5代目A90型はGRスープラと呼ばれる。国交省の届け出名はスープラで、GRスープラはマーケティング活動における名称。
GAZOOレーシング初の専用モデルであり、また、初めての海外で販売するモデルでもあることで、GRの名を前面に押し出す戦略としているのだ。
このGRスープラがBMW Z4と兄弟車であることはよく知られている。
「企画」がトヨタ、「設計、生産」がBMWという役割分担で、これは86/BRZにおけるトヨタとスバルの関係と同じだが、実際に開発が始まるといろんな部分が重なり合って、そう簡単に分けられるようなものではなかったらしい。
エンジン、プラットフォームはBMW製だが、開発はまったく別のチームで行い、互いにどんなクルマを作っているのか知らないまま進めたという。
ここでGRスープラの基本的なスペックをお伝えしておこう。エンジンは直6、3Lツインスクロールターボ(RZ)と直4、2Lターボ(SZ-R、SZ)で、3Lターボは340ps、2LターボはSZ-Rが258ps、SZが197ps。
これに8速スポーツシーケンシャルATが組み合わされ、0〜100km/h加速の公表値はRZが4.3秒、SZ-Rが5.2秒、SZが6.5秒となっている。また、全車にアイドリングストップシステムが付く。
ボディサイズは全長4380×全幅1865×全高1290(RZ)〜1295(SZ-R&SZ)mm。ホイールベースは86よりも100mm短い2470mmで2シーターとなる。
ショートホイールベース&ワイドトレッドが特徴で、その比率は約1.55と市販車としては相当低い数値。この比率は1に近いほど回頭性がよく、2に近いほど直進安定性に優れることを意味しており、GRスープラは低重心とあいまって、シャープな走りを実現できるパッケージングとしているのだ。前後重量配分は50:50だ。
シャープな走りを支えるもうひとつのアイテムがアクティブディファレンシャルで、RZとSZ-Rに標準装備となる(SZには設定なし)。
これはコーナーの進入から脱出まで適正なロック率を制御し、最大限のトラクションと安定性を確保するもので、GRスープラの「走りの味」を決める重要な機能だ。
サスペンションはフロントがストラット、リアが5本のアームを備えるマルチリンクで、RZとSZ-Rはショックアブソーバーの減衰力を最適に制御するAVS(アダプティブバリアブルサスペンションシステム)を採用している。
ブレーキは、RZには赤色に塗装されたブレンボ製の4ポッド対向キャリパー(フロント)が装備される。
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