日本の自動車メーカーは小さなクルマ作りが得意だ。日本の道路事情や手頃な車両価格から小さなクルマを好む人が多いので、メーカーも自ずと力を入れる。が、まさかのレクサスが、「LBX」で小さなクルマ市場に参入してきた!!
※本稿は2024年2月のものです
文/鈴木直也、写真/LEXUS、撮影/茂呂幸正
初出:『ベストカー』2024年3月10日号
■過去に成功例の少ない“小さな高級車”に挑戦
レクサス初のコンパクトSUVとなるLBX。いわゆる「小さな高級車」という位置付けのニューモデルだ。ただし、この「小さな高級車」というテーマ、商品として成功させるのは極めて難しい。
いかにもニーズがありそうだし、1960年代のBMCヴァンデン・プラあたりを思い浮かべて「イケそう」と思いがちなのだが、成功した例はほぼ皆無。トヨタでいえば、かつて“プログレ”がその路線を目指したけれど、目立った成果を上げることはできなかった。
もちろん、トヨタはそんなことは百も承知のはずだろうが、BセグメントのSUV、もっと平たく言えばヤリスクロスをベースとしたクルマを500万円オーバーで売るのは、かなり挑戦的な企画といっていい。
そのためにまず絶対不可欠なことは、サイズはコンパクトでも「500万円の価値はある」と納得できるクォリティの造り込み。レクサスというブランドに見合った価値があるか、そこがまず問われるわけだ。
■コンパクトカーとは次元の違う走り
試乗会ではそこを重点的にチェックしてみたのだが、ここは予想以上に健闘しているという印象だった。
まず好感を抱くのはボリューム感のある外観デザインだが、そこには強靭な骨格を連想させる力強さがある。
ついついヤリスクロスと脳内で比較してしまうのだが、贅肉を削ぎ落としたヤリスクロスのデザインとは対照的に、LBXはセクシーな曲面を多用していることもあり、車格感がひとクラス上というイメージ。それもあって、プラットフォームが共通とは思えないプレミアム感がある。
インテリアについては、試乗した2台のLBXのうち、Relaxにはタンの本革、Coolには人工スエードが内装材として使われていた。
シートはもちろん、ドアトリム、センターコンソール、ダッシュボード下面まで一体感のあるデザインで高級感抜群。インテリアは外観デザイン以上にプレミアムカーとしての見せ場だと思う。
外観デザインから感じる筋肉質なイメージは走りでも一貫していて、剛性感の高いシャシーがもたらす骨太な乗り心地/ハンドリングは、いわゆるコンパクトカーとは次元の違う水準といっていい。
まず注目したのは、コンパクト系トヨタ車が苦手とする市街地レベルでの乗り心地だが、225/55R18というファットなタイヤを履いているにもかかわらず不快なドタつき感が感じられず、段差や目地越えなどをスムーズにこなすのはお見事。
鍛造アルミ製フロントナックルや入力分離アッパーマウントなど、プレミアムクラスならではの贅沢なパーツを動員しているとはいえ、Bセグでも「やればここまでできるんだ!」という驚きがある。
速度を上げてゆくと、80km/h前後のレンジでリアサスの動きが少しバタバタするのが気になるが、不満といえばほぼそれが唯一。
逆に、速度を上げてゆくと、どしっと落ち着いた直進安定性やとてもコンパクトカーとは思えない優れた静粛性など、クラスヒエラルキーを超越したLBXの実力がだんだん明らかになってきて、「コイツはただ者じゃない!」と唸らされる。
こういうトータルな上質感を演出するには、一点突破的な技術ではなく細部まで調和のとれた技術革新が必要なのだが、エンジニアに話を聞くと「GA-Bプラットフォームを使っていますが、ほとんどすべてLBX用に手を入れています」とのこと。
ユニット単位で見ても、電動パワステは制御ロジックが専用開発だし、ブレーキはレクサス上級モデルで使われ始めているオンデマンド型ECBだし、前述のアルミ鍛造ナックルなどとともにレクサスのコスト基準に基づいた部品選択が行われているわけだ。
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