日本市場ではセダン人気が低迷して久しいものの、遠い海の向こうではセダンがまた復権を遂げている。
ベンツが日本市場に2019年7月22日にAクラスセダンを設定し、さかのぼればアウディA3にもセダンが設定されている。
コンパクトクラスのセダン、一見需要がないように見えて実は相当価値があるのかもしれない。
日本市場でもコンパクトクラスならばセダンは復権するのでしょうか?
文:鈴木直也/写真: Daimler、Audi、Nissan、編集部
■セダンを諦めない欧州勢が目指すものとは?
最近は全世界的なSUVブームだから、新たにデビューする新車といえばクロスオーバー系のSUVが主流。とりわけ日本では、セダンの肩身がどんどん狭くなってきている。
ところが、欧州勢はセダンラインナップを諦めていない。つい最近もAクラスのセダンが発表になったが、Cセグハッチバックベースでも、ほぼ必ずセダンのラインナップを提供している。
かつては、日本でも同じようなバリエーションを揃えるのが普通で、Bセグハッチバックベースのスモールセダンがたくさんあった。
しかし、最近は小さいセダンはまったくの不人気車。もはやグレイスくらいしか残っていない。
スモールセダンに対するこの日欧の温度差は、やはり市場環境の違いにあると思われる。
まず、欧州車の地元ではスモールセダンに一定の需要がある。ご存知のとおり、欧州のベーシックカーは今も昔もコンパクトハッチバックで、庶民はみんなA/Bセグハッチバックに乗っている。
その上に、もうちょっと高級なスモールセダンのゾーンがある。最近はコンパクトSUVに縄張りを侵食されているとはいえ、メーカーが新車を投入する気になるサイズのマーケットが存在するのは大きい。
さらに、欧州勢はそれを北米市場にも持ってきている。
じつは、いまぼくは取材でロサンジェルスに来ているのだが、全米きっての巨大自動車市場であるカリフォルニアでは、もちろんSUVも多いのだけれどスモールセダンもウヨウヨいる。
そして、その中で目立つのが、VWジェッタをはじめ、ベンツAクラスやアウディA3のセダンバージョン。これが日本で想像するよりずっとたくさん走っている。
■日本には軽自動車があるからコンパクトセダンは流行らない??
ただ、日本では高級車イメージのある欧州プレミアムのスモールセダンながら、カリフォルニアでの使われ方は「ただの足」といった印象。
こちらでも、いちばん安いのはコンパクトハッチバックだが、それじゃ荷室が丸見えで防犯上好ましくないと考える人が、ちょっと上のスモールセダンを買っているようだ。
日本でも、公共交通機関が衰退した地方では軽自動車が一人1台(ということは一家に2〜3台)といった使われ方をしているが、それがスモールセダンに置き換わったのが北米市場。そう理解すれば間違いないだろう。
この大きなマーケットに対して、意外なことに日本車はあまり熱心ではない。
スモールセダンを造るなら、北米向けよりむしろアジア新興国向け。北米市場なら、スモールセダンを売るより利幅の大きいミディアムセダンやSUVの方が美味しい。
つまりトヨタならカムリやRAV4、ホンダならアコードやCR-Vに注力した方が儲かるからだ。
本音を言えば、欧州勢もこの美味しい市場をガバッといただきたいのだが、カムリハイリッドが3万ドル程度で買える競争激甚なマーケットで価格競争に巻き込まれると、日本勢相手にはあんまり勝ち目がない。
結果として、ニッチな2万ドル程度のスモールセダンが売れているといった印象だ。
そんなわけだから、日本でスモールセダンが流行るかどうかは、海外市場の影響が大きい。
欧州プレミアムのスモールセダンが北米でたくさん売れれば、その余波で日本でも買いやすくなるだろう。
逆にアジア新興国で数多く売れている国産スモールセダンのクォリティが上がって来れば、それを日本に持ってこようという動きが始まるかもしれない。
マツダ3のようなカッコいいセダンが出てきたことで、日本でもスモールセダン人気がもっと盛り上がればいいとは思うが、そう簡単に日本のユーザーの意識は変わらないんじゃないでしょうかねぇ……。
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